ひたぶるにただ天に向く松の花

■ ひたぶるにただ天に向く松の花　

　 （ひたぶるに　ただてんにむく　まつのはな）

今、人知れず咲いている花に「松の花」がある。人知れずと言っても大抵の人は見ているはずだが、花と認識されていないせいか、ほとんど注目されない。

かくいう自分も、俳句をやるまでは全く見向きもしなかったが、それを認識してからは、松を見るたびに目に飛び込んでくる。

本日の掲句は、その松の花が、皆天に向かって伸び、咲いているのを見て詠んだ句である。「松の花」は春の季語。

ところで、松の花が「咲いている」と記したが、いささか違和感がある。それは、通常の花とは全く形状が違うからである。

一体どんな仕組みになっているのか。以前調べたことがあり、本ブログでも一度記事にしたことがあるが、参考まで再掲したい。

まず、松には雄花と雌花があり同株につく。左写真を用いて説明すれば、下に葡萄の房のようになっているのが雄花で、その一つ一つの粒が雄蕊。

最初に、この雄花が咲き、後に長い芯の先に数個の雌花が咲く。これが後に松かさとなる。

また、花の付け根にある小さな松かさは前年の雌花、その下にある大きな茶色の松かさは、種子が飛び出た後のもので一昨年の雌花である。

「松の花」と少し混同する季語に「松の芯（しん）」があるが、これは、松の花になる前の段階で、芯のように立って芽吹く松の新芽のこと。

因みに、「松の花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。

　　　誰それを待つこともなく松の花

松の花が、人知れず咲いているのを見て詠んだ句で、誰かれを待つことが少なくなった自分の境遇にもかけた。

松は、マツ科マツ属の常緑針葉樹。赤道直下から北極圏まで、北半球の広い範囲に分布する。花期は４月～５月。花は雌雄同株で花形などは既述の通り。

名前の由来は、「（神を）待つ」、「（神を）祀る」や「（緑を）保つ」が転じて出来たとする説など多数ある。風媒花であり、雄花で作られた花粉は、風で雌花に運ばれて受粉する。

尚、スギ花粉症はよく聞くが、マツ花粉症はないのかというと５月がピークだそうだ。但し、マツの花粉はスギなどに比べると粒子が非常に大きいので、風で飛ぶ範囲が狭く、かかる人は少ないとのこと。

「松の花」を詠んだ句は多く、以下にそのいくつかを掲載する。（過去に掲載したものは除く。）

　　　【松の花の参考句】
　　　　松の花きのふはここに潦　　　　　　（山口誓子）　　＊潦（にわたずみ）

　　　　松の花けぶるや潮の香のたかき　（水原秋桜子）
　　　　松の花に高き二階や学問所　　　　（長谷川かな女）
　　　　みんなみはしらなみいくへ松の花　（上田五千石）
　　　　すつと立つ草木の中に松の花　　　（上島鬼貫）