■ 先代が愛でし山茱萸黄を散ず
( せんだいが めでしさんしゅゆ きをさんず )
この家の人とは面識がないが、確か数年前には忌中の札が玄関に貼ってあった。多分ご主人が亡くなったものと思われる。
しかし、以前から山茱萸の木は植えてあって、毎年見事な花を咲かせている。特に、剪定も行き届いていて、枝ぶりもまた大層見ごたえがある。
本日の掲句は、そんなことも思い出しながら詠んだ句である。主人は亡くなっても植えられた木は残り、毎年欠かすことなく花を咲かせる。
「山茱萸」「山茱萸の花」は春の季語。「山茱萸の実」は秋の季語。
因みに、山茱萸に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 山茱萸の天は黄金に霞みけり
② 山茱萸の黄金に霞む真如堂
①は、黄色い小粒の花が塊状になって咲き、たくさんの花が重なり合って咲くと霞がかかったように見えることを詠んだもの。
②は、「天」の代わりの「真如堂(しんにょどう)」という有名な寺の名前をおいて詠んだ。
山茱萸は、ミズキ科ミズキ属の落葉小高木で、中国と朝鮮半島が原産地。日本には江戸中期に渡来したそうだ。花期は3月から5月。若葉に先立って、黄金色の小花の塊を木一面につける。
「さんしゅゆ」は中国名「山茱萸」の音読みで、 「茱萸」はグミのこと。但し、グミのような赤い実がなるものの、グミの仲間ではない。別名で「春黄金花(はるこがねばな)」ともいうが、花の様子を見ると、この名前の方が似つかわしい感じがする。
余談だが、宮崎県の民謡「ひえつき節」の中に出てくる「サンシュ」とは、「山椒は小粒でぴりりと辛い」の「山椒(さんしょう)」のことで、日向地方の方言でそのように発音するとのこと。どうも山茱萸とは違うようだ。
「山茱萸」に関しては、これまでいくつかの句を本ブログでも紹介したことがあるが、本日はそれ以外のものを掲載した。
【山茱萸の参考句】
山茱萸の花の数ほど雫ため (今井つる女)
雲来しと雲の行きしと山茱萸黄 (後藤比奈夫)
山茱萸のそらいちめんに嵐かな (古館曹人)
山茱萸の黄の点描や朝の椅子 (水野すみ子)
山茱萸の一老木の花明り (菊池麻風)