■ 街中の稲田の稲も黄となんぬ
( まちなかの いなだのいねも きとなんぬ )
これは、日本人の生活文化から生まれた日本独自のもので、「節分」「彼岸」「八十八夜」「土用」などはこの雑節にあたる。
他にも「二百十日(にひゃくとおか)」「二百二十日(にひゃくはつか)」などがあるが、これは、特に農作業との関係が強い雑節であるとのこと。
二百十日は、立春から210日目のことで、この頃は稲が開花する重要な時期で、農作物に甚大な影響を与える台風に見舞われることも多い時期でもある。それ故、厄日として戒めるようになったとのこと。毎年9月1日頃がその日に当たる。
有名な越中八尾「おわら風の盆」は、この時期に合わせて行われるが、これは、風を鎮める豊年祈願と盆踊りが融合し、今では娯楽のひとつとして愛しまれている祭りだそうだ。
二百二十日も同様の趣旨で警戒される日だが、これに、旧暦8月1日の「八朔(はっさく)」を加えて農家の三大厄日となっているとのこと。
前書きが長くなったが、本日の掲句は、そんな折に街中にある田んぼの稲も黄色に色づいてきたことを詠んだもの。こちらでは、広大な田園地帯とは違い、家々に囲まれた狭い田んぼの稲穂を見ることで、収穫の時期になったことを辛うじて知ることができる。
下五の「なんぬ」は、動詞「なる」の連用形+助動詞「ぬ」の終止形、「なりぬ」の撥音便。例句「山茱萸にけぶるや雨も黄となんぬ(水原秋桜子)」。「稲田」は秋の季語。
因みに、「稲田」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
黄金の国ジパングの稲田かな
これは、冒険家マルコ・ポーロが、13世紀終り頃に、著書「東方見聞録」で日本を「黄金の国ジパング」と称したことを引用して詠んだもの。田園地帯が一面黄色に色づいているのを見ると、まさにそんな感じがする。
「稲田」を詠んだ句は結構あるが、以下では、ネットで見つけたものをいくつか選定し掲載した。
【稲田の参考句】
盛装を稲田の夕日照らしけり (山口誓子)
風炎の稲田をはしる青鴉 (柴田白葉女)
稲田ゆくまぢかの稲の一つづつ (石川桂郎)
徐々にして稲田に月の道敷かれ (能村登四郎)
列車音稲田をキタカタキタカタと (高澤良一)