■ 新涼や鈴虫花咲く草の道
( しんりょうや すずむしばなさく くさのみち )
残暑には、まだ厳しいものがあるが、それでも朝夕は大分涼しくなってきた。こんな気候を俳句では、「新涼(しんりょう)」あるいは「涼新た」といい、初秋の季語になっている。
ところで「涼し」と言えば、夏の季語だが、これは、「暑さの中で感じる夕暮れ時や水場などの貴重な涼しさのこと。」をいう。
一方「新涼」の方は、「秋の訪れとともに、暑さが弱まっていくことで感じられる確かな涼しさのこと。」をいい、区別されている。
何ともややこしい話で、当初は戸惑いもしたが、最近では、季節の変化に対する細やかな感覚を表した言葉であり、心して使うようにしている。
本日の掲句は、そんなおり、久しぶりに近くの神社に行き、「鈴虫花(すずむしばな)」が、草むらに群れ咲いているのを見て詠んだ句である。
花の名前は、鈴虫が鳴く頃に咲くのでついたとのこと。この時期に鳴く虫は他にも沢山いるので、何で鈴虫がついたのか疑問が残るが、蟋蟀(こおろぎ)花よりは良さそうだ。
尚、「鈴虫花」は季語になっていないので、掲句では「新涼」が季語となる。
因みに、「鈴虫花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① りんりんと鈴虫花も鈴虫も
② 鈴虫の声も涼しき鈴虫草
①は、上五の「りんりんと」を風鈴のような花の姿と鈴虫の鳴き声にかけて詠んだ。
②は、ある朝、鈴虫花を見ていると鈴虫の涼しげな鳴き声が聞こえてきたことを詠んだ。この句では語感を考慮し、敢えて旧名の「鈴虫草(すずむしそう)」を使った。
鈴虫花は、キツネノマゴ科イセハナビ属の多年草で、原産地は、日本、中国など。花期は9月~10月で、花は朝に咲き午後に萎む1日花。花色は紫色が主だが白花もある。
尚、鈴虫花は、かつて鈴虫草(すずむしそう)と呼ばれていたそうだが、ラン科の同名の草との混同を避けるために、この名前になったとのこと。
季語になっていないこともあり、「鈴虫花」を詠んだ句はほとんどないので、参考句は「新涼」を詠んだ句をいくつか掲載した。
【新涼の参考句】
新涼の身にそふ灯影ありにけり (久保田万太郎)
新涼や一雨ありしにはたづみ (池内たけし)
新涼や白きてのひらあしのうら (川端茅舎)
新涼の水の浮べしあひるかな (安住敦)
新涼の犬に言葉をかけにけり (川崎展宏)