■ 俯きのスノードロップ冴え返る
( うつむきの すのーどろっぷ さえかえる )
スノードロップは12月頃にも咲いていたので冬の花だと思っていたが、先日行った植物園では、今が盛りとばかり群生していた。実際には、2月~3月が最盛期のようで、季語としても冬ではなく春に分類されている。
下五に使った「冴え返る(さえかえる)」とは、「春になって一旦緩んだ寒さがまたぶり返すこと」をいう。これも春の季語なので、掲句は季重なりになるが、スノードロップの雪を連想する花名との兼ね合いで敢えて使ってみた。
尚、「冴え返る」とは、もともと「冴える(冴ゆ)」という言葉との関連でできた言葉である。この言葉には、単に寒さが厳しい、あるいは冷え込むという意味だけでなく、光、音、色などが濁りなく鮮明であるという意味がある。
だから「冴える」とは、真冬の澄み切った大気の中で身に浸みこむような寒さといっても良いだろう。「冴え返る」とは、そういう状況に戻ることをいうが、大寒の時のような寒さにならなくとも、一度暖かさを知った身体には酷く応える。
花は、外側に大きな花びらが3枚、その内側から顔をのぞかせるように小さな花びらが3枚つく。内側の花びらは重なり合って筒状になり、緑色の大きな斑が入るのが特長。一本の花茎に一輪の花が付く。
ヨーロッパでは古くから親しまれており、宗教との関わりも深く、神話や伝説が多く残る植物だそうだ。特にキリスト教では2月2日の聖燭節(キャンドルマス)の花とされている。
名前の由来は花姿や花色を雪の滴(しずく)に例えたものとされている。別名に待雪草(まつゆきそう)、ガランサスなどがある。似た名前の植物にスノーフレーク(鈴蘭水仙)があるが、これは別属のもので4月~5月に花を咲かす。
【冴(え)返るの参考句】
冴返る音や霰の十粒ほど (正岡子規)
真青な木賊の色や冴返る (夏目漱石)
冴え返り冴え返りつつ春なかば (西山泊雲)
筆えらぶ店さきにゐて冴え返る (室生犀星)
ひとり佇つ東京駅の冴返る (小澤初江)