■ 木漏れ日の欅並木や初の蝉
( こもれびの けやきなみきや はつのせみ )
1週間ほど前から蝉が鳴き出した。今年初めて聞いたのは、京都の植物園前の欅(けやき)並木。例年、この並木では蝉がたくさん羽化し、初秋頃まで連日かしましい。蝉が鳴き出すと、いよいよ夏本番といった感じがしてくる。
尚、こういう句は、他では認められない可能性があるので、「初の蝉」の用例が出て季語として認められるまでは、手元においておくしかないだろう。
ついでながら、季語に関連していえば、「初蝉」のような4音の季語には、いつも悩まされる。上五に使用する場合は、「初蝉や」「初蝉の」など使い勝手が良いのだが、下五においてはほとんど使えない。
だから、後掲の参考句の通り、「初蝉」は大抵上五で使われる。このことは、句の形が季語の音数により縛られるということを意味し、おかしいと思うのだが、何百年も変わらないようだ。
こうした季語の音数による制約は、4音に限らず他にも多々ある。季語を変形して使用する例もあるが、どこまで許容して良いかは、今後研究する必要があるだろう。勿論、無季自由律という考え方はあるが、それには別の問題がある。現時点では有季定型の範囲で考えたい。
話は少し横道にそれたが、初蝉に関して言えば、やはり「初の蝉」で以下の句を詠んだことがある。
梅雨明けの宣言なるか初の蝉
例年、梅雨明け宣言の前後に、その年の初蝉が聞かれるが、この年は梅雨明け宣言前に聞いた。今年も、もうそろそろ宣言があっていいはずだが。
蝉は、卵→幼虫→成虫という不完全変態(蛹:さなぎを経ない)をする昆虫である。幼虫として地下生活する期間が長く、3~17年(アブラゼミは6年)に達するそうだ。成虫期間は僅か1~2週間。
鳴くのはオスの成虫で、腹腔内に音を出す発音筋と発音膜、音を大きくする共鳴室、腹弁などの発音器官が発達しており、懸命に鳴いてメスを呼び命をつなぐ。そして、ついには落蝉となって一生を終える。
初蝉の声ひきたらぬ夕日哉 (正岡子規)
初蝉や老木の桑に鳴きいでて (水原秋桜子)
初蝉のにいにいが鳴き朝曇 (篠田悌二郎)
初蝉の清水坂をのぼりけり (日野草城)
初蝉や水面を雲のうつりつつ (桂信子)