■ 人いきれ揺るる山鉾蝉しぐれ
( ひといきれ ゆるるやまぼこ せみしぐれ )
昨日は、日本三大祭の一つである祇園祭の山鉾巡行(やまほこじゅんこう)が行われた。今年は49年ぶりに、前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)に別れて実施され、前祭では、33基ある山鉾の内23基が巡行した。
本日の掲句は、その時の情景を詠んだものだある。上五の「人いきれ」という言葉は、聞きなれない言葉と思うが、「多くの人が集まっていて、体から出る熱気や臭いでむんむんすること」を言い、夏の季語となっている。漢字では「人熱きれ」と書く。似た言葉に「草熱きれ」があるが、これは「草が夏の強い日差しを受け、熱気でむんむんすること」をいう。
ところで、掲句では中七に「山鉾」、下五に「蝉しぐれ」を使ったが、これらは何れも夏の季語。ということは季語3つの季重なりの句となる。季重なりはできるだけ回避すべきで、特に3つ以上はだめと言われているが、沿道の暑苦しい状況をそのまま表現するために試みに詠んでみた。
勿論、もう少し工夫できないかとあれこれ考え、まずは、上五の「人いきれ」を取り、以下のように変えてみた。
ぎしぎしと揺るる山鉾蝉しぐれ
こうすれば、季語は二つになり、ぎしぎしという山鉾の音と蝉しぐれの音が共鳴した感じになる。但し、沿道が人で埋め尽くされている状況は捨象された。次に、下五の「蝉しぐれ」を取って、
ぎしぎしと山鉾揺るるビルの谷戸
とすれば、季語一つで、結構落ち着いた感じになる。本来ならこの句を取るべきなのだろうが、この句からは人の喧騒や蝉しぐれのが姦しさは伝わってこない。*谷戸(やと):丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形。
以上3句並べてみたが、自分としては、一応それなりの句にはなっていると思う。しかし、どれをとるかは、最終的にその時の気分次第だろう。今回は、人があふれていて暑苦しい、そんな印象を忠実に表現したいと思い掲句をとった。勿論、巡行にはいつも感激するのだが。
因みに、これまでにも山鉾巡行については何句か詠んでいる。
【関連句】
① 白南風が山鉾揺らすビルの谷
② 山鉾やきしむ車輪に重みあり
③ 力こむ扇の先や辻回し
①は、ビルの谷間で風に揺れる山鉾の様子を詠んだ。②は山鉾の車輪の軋みに重みを感じて詠んだもの。山鉾の重さは10トン超になるとのことだが、その重みと歴史の重みを重ねて詠んでみた。③は、辻回しの時の音頭取りの所作に注目して詠んだ句。扇子の動きが面白い。
【祇園祭山鉾巡行の参考句】
長刀鉾刃に空を截りすすむ (山口誓子)
長刀鉾刃に空を截りすすむ (山口誓子)
舟鉾の螺鈿の梶があらはれぬ (平畑静塔)
月鉾のきしみに古都がよみがえり (嶋津菊正)
祇園囃子人の流れに鉾が行く (成川胡藤子)
青竹のきしむ音聞く辻まわし (鈴木静子)
月鉾のきしみに古都がよみがえり (嶋津菊正)
祇園囃子人の流れに鉾が行く (成川胡藤子)
青竹のきしむ音聞く辻まわし (鈴木静子)