■ 春なればもっと光を福寿草
( はるなれば もっとひかりを ふくじゅそう )
この花は、新春=正月に咲くということで、「福寿(幸福と長寿)」というめでたい名前がつけられた。しかし、その新春とは旧暦の正月=旧正月のこと。
今年は2月5日がその日に当たるが、福寿草が咲くのも、本来であれば、この時期なのである。
ところが、日本は明治5年(1872年)に新暦を採用したため、正月が旧暦よりも1ヶ月ほど早まった。
幸か不幸か、そのころ福寿草は、正月に欠かせない花として定着していたので、結局温室での促成栽培で対応することになったとのこと。
俳句の世界でも、「福寿草」は新年の季語に分類されている。だから、実際に咲く春の句にするには、春の季語を別に入れる必要がある。
さて、本日の掲句は、そんなことも念頭に詠んだ句である。上五には「福寿草」よりも強い季語「春」を上五においた。
ところで、この句のポイントは中七の「もっと光を」なのだが、このフレーズ、多分どこかで聞かれたことがあると思う。
何だそれだけのことか。ちょっと肩透かしをくった感じだが、同じ言葉でも偉人が言うと、後から尾ひれがついて意味深の言葉になるものだと改めて思った。
【関連句】
① 春の陽を浴びて耀う福寿草
② 新年ももう三月や福寿草
③ ありったけ光集めよ福寿草
②は、先頃新年迎えたばかりだと思っていたのに、もう3月になったのかとその感慨を詠んだもの。
③は、2月初め、まだ蕾のままの福寿草が多かったので、もっと光を集めて開いてほしいと思って詠んだ句。本日の掲句と着想は同じ。
福寿草は、キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草。原産地はシベリア東部、東アジア。花期は2月から4月。当初は茎が伸びず、苞に包まれた短い茎の上に1つ2つの花をつけるが、次第に茎や葉が伸び、いくつもの花を咲かせる。
花は蜜を持ってないため、パラボラアンテナのような花弁を使って日光を花の中心に集め、その熱で虫を誘引する。その為、日光が当たると開き、日が陰ると閉じて保温性を高めている。
【福寿草の参考句】
福寿草十花燦たる鉢一つ (水原秋櫻子)
日のあたる窓の障子や福寿草 (永井荷風)
わが好きの数の七つの福寿草 (五十嵐播水)
音もなく日はかがやけり福寿草 (仙田洋子)
仏具屋に日向がありて福寿草 (清崎敏郎)