■ 太古より羊歯の葉揺らす律の風
( たいこより しだのはゆらす りちのかぜ )
羊歯という植物は、「維管束植物のうちの花を咲かせない非種子植物」 (難しいので説明はパス)で、ワラビ・ウラジロ・ゼンマイなど世界に約九千種あると言われている。
コケ植物に次いで約4億5千年前に地上に進出した植物界のパイオニアで、その原型をとどめながら、今も立派に生存している。
そのこと自体、言葉で言い尽くせないほど凄いことのように思える。何しろ4億5千年前には、人類の影も形もなかったのだから。
本日の掲句は、そんな思いを持って詠んだ句だが、下五を何にするかについては少し悩んだ。
というのは、「羊歯」そのものは縁起物として新年の季語になっているので、秋の句にするには秋の季語を持ってくる必要がある。
そんな時、時々訪問するブログで「律の風(りちのかぜ)」という季語が紹介されていたことを思い出し、言葉の響きがいいのでそれを使うことにした。(一度使ってみたかったと言うのが本音。)
尚、「律の風」とは、秋らしい感じの風のことだが、「律」は雅楽などに取り入れられた音階のひとつ。
*雅楽の音階には、「呂(りょ)」と「律(りつ)」の二つがあり合、わせて「呂律(りょりつ)」と言う。
日本では律は陰、呂は陽を表す言葉として用いられるが(中国では逆)、季節の印象では陽が春、陰が秋なので、秋の感じを「律の調べ」というようになった。「律の風」は、それからの派生したもの。尚、「呂の風」という言葉はない。
ついでに言えば、雅楽を演奏する際に、呂の音階と律の音階がうまく合わないことを「呂律(りょりつ)が合わない」といい、そこから転じて「呂律(ろれつ)が回らない」という言葉が使われるようになったとのこと。
*呂律が回らない:舌が回らずに言っていることがよく聞き取れない状態のこと
「律の風」という季語はあまり知られていないこともあり、詠まれた句はほとんどないが、ネットでいくつか見つけたの参考まで掲載しておきたい。
【律の風の参考句】
律の風砂に色あり波のあり (石関洋子)
露天湯に星こぼれけり律の風 (長沼冨久子)
律の風チェンバロ響く名主蔵 (松本紀子)
一舟の湖心離るる律の風 (藤井寿江子)
律の風パン工房の煙出し (川口襄)