■ 祠立つ辻に無花果赤味さす
( ほこらたつ つじに いちじく あかみさす )
完全に熟すまでには、まだ少し時間がかかりそうだが、緑色から暗紫色に変色し、近くへ寄ると甘酢っぱい匂いがしてきた。
本日の掲句は、そんな様子を見て詠んだ句である。
実のところ、近所で無花果の木が植わっているところは少なく、祠の傍に植えてあったのには少々驚いた。無花果は秋の季語。青無花果とすれば夏の季語となる。
ところで、旧約聖書『創世記』に登場する「禁断の果実」だが、その果実とは林檎(りんご)とばかり思っていた。
しかし、聖書には明確に記載されておらず、ユダヤ人やイタリヤ人などは無花果だと言っているそうだ。
アダムとイブがこの禁断の果実を食べた後、恥ずかしさのあまり局部を隠したのが無花果の葉だったことからすれば、この説は十分納得できる。しかも、無花果の方が林檎よりも何となく神秘的な感じがする。
尚、禁断の果実については、地域によってブトウ、ザクロ、ナシなどが挙げられているとのこと。
話は戻って、無花果に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 無花果の花は実の中甘い花
② 無花果のとろりと甘き実りかな
③ 禁断の無花果の実や食べまほし
①は、無花果の花の仕組みを知り詠んだ句。イチジクは漢字で無花果と書き、花を咲かせず実がなると思われているが、実際は外からは見えないだけで花嚢(かのう)=実の内側に花はちゃんとある。
②は、無花果の実りの様子を詠んだもの。
③は、禁断の果実と言われる無花果が、赤く熟しているのを見て詠んだ句。
無花果は、クワ科イチジク属の落葉高木。原産地はアラビア南部。日本には、江戸時代初期に渡来。名前は、「一月で熟す」もしくは「毎日1個ずつ熟す」といことで「一熟」となり、それが変化して「いちじく」になったそうだ。(諸説あり)
余談だが、名字に「九」というのがあり、一文字で九だから、これを「いちじく」と読むそうだ。
無花果を詠んだ句は非常に多く、その中からいくつか選んで以下に掲載した。(過去に掲載したものを除く。)
【無花果の参考句】
黒板塀無花果多き小道かな (正岡子規)
雨知らぬ無花果裂けて熟れにけり (水原秋桜子)
無花果をもがむと腕をねぢ入るる (波多野爽波)
無花果を手籠に旅の媼どち (飯田蛇笏)
無花果の熟るる花街の濯ぎもの (殿村菟絲子)
無花果を手籠に旅の媼どち (飯田蛇笏)
無花果の熟るる花街の濯ぎもの (殿村菟絲子)