■ 花木五倍子垂れて蒼天賑々し
( はなきぶし たれて そうてん にぎにぎし )
先日ある神社に行った時、入口の鳥居前で、簪(かんざし)のような花を沢山垂らしている樹木に出会った。
名前は「木五倍子(きぶし)」というが、数年前にその名を知った。
この花木は、ここ以外ではまだ見たことがなく、多くの人は知らないのではないかと思う。多分、もう少し山間部に行けば、沢山見られるのかもしれないが。
本日の掲句は、その木五倍子の花が青空をバックに沢山垂れ下がっているのを見て詠んで句である。
中七で使った「蒼天(そうてん)」は青空のことだが、春の空という意味もあるらしい。「木五倍子の花」「花木五倍子」は春の季語。
因みに、木五倍子に関しては過去に以下の句を詠んでいる。
簪にはちょっと地味かも花木五倍子
この花、形は簪のように見えるが、ちょっとくすんだ黄緑色で、簪にするにはちょっと地味かも知れないというのが句意。
ところで、「木五倍子」という漢字、「きぶし」と読める人は少ないと思うが、なぜ、こんな当て字が使われているのか。以前調べて記事にしたことがあるが、参考までその要点を再掲したい。
○「五倍子」とは、ヌルデという植物の若芽や若葉などにできる虫こぶのことを言う。これを加熱乾燥させるたものが黒色染料(お歯黒など)の材料になる。
○「五倍子」という名前は中国語由来で、そのまま「ごばいし」と読んでいたが、五倍子を付子(ふし)とも言うことから、五倍子も「ふし」と読むようになった。
○「木五倍子」は、実が黒色染料の五倍子の代用になるということで命名され、読み方も「きぶし」となった。
非常にややこしいが、どうやら中国語由来の当て字のようである。こういう例は動植物名などでは結構多い。
木五倍子は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木。原産地は日本。花期は3月~4月。葉が伸びる前に薄桃、淡黄色(雄花)、淡黄緑色(雌花)の鐘形の花が房となって多数垂れ下がる。秋にはぶどう状の実をつける。
花の姿が藤に似ているというので、「木藤(きふじ)」という別名もある。
「木五倍子」を詠んだ句はあまりないが、ネットで見つけた句をいくつか以下に掲載した。(前回掲載したものを除く。)
【木五倍子の参考句】
花木五倍子簪に似て「よーいやさ」 (高澤良一)
身心を山に置いたる花木五倍子 (各務耐子)
源流はもとより一縷木五倍子咲く (大岳水一路)
雨の日の木五倍子の花のうすみどり (鳥居みさを)
瀬音へと花房垂るる木五倍子かな (笹川悦子)
身心を山に置いたる花木五倍子 (各務耐子)
源流はもとより一縷木五倍子咲く (大岳水一路)
雨の日の木五倍子の花のうすみどり (鳥居みさを)
瀬音へと花房垂るる木五倍子かな (笹川悦子)