■ 町中の田の畔萌えて繁縷咲く
( まちなかの たのあぜもえて はこべさく )
そこで、やむをえず少し離れたところにある田んぼを見に行った。まだ早いかなと思ったが、その畔には繁縷(はこべ)などいくつかの野草が花を咲かせていた。
本日の掲句は、その情景を詠んだ句である。図らずも「町」「田」「畔」と田の付く漢字が三つ並んだ。「繁縷」は「はこべ」「はこべら」とともに春の季語。
因みに、繁縷に関しては過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 小さけりゃ小さき花をはこべかな
② 屈むれば繁縷小さく咲きてあり
①は、小さいものは、小さいなりに、小さな花を咲かせれば良いという趣旨を込めて詠んだもの。
②は、繁縷の小さい花を屈んで見た時のことを詠んだ。近くで見るとしっかりとした花弁を広げ、非常に健気な感じがする。
花期は2月~9月と長い。直径5mmほどの5弁(10枚に見えるのは1弁が深く裂れているため)の花をつける。春の七草のひとつで昔は食用にもしていた。小鳥の好物でもあり、「ひよこぐさ」「すずめぐさ」などの別名がある。
漢字の「繁縷」については、「繁」が生い茂ることを表す漢字で、「縷」は、長くのびた糸のこと。したがって、花ではなく、葉、茎の印象から付けられた名前だと考えられる。
【繁縷(はこべ、はこべら)の参考句】
はこべらの石を包みて盛上る (高浜虚子)
石垣にはこべの花や橋普請 (永井荷風)
親しくて好きではこべら犬ふぐり (遠藤梧逸)
遮断機にはこべは去年の座をひろげ (中村汀女)
はこべらの賑ふ日向ありて行く (村越化石)
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