■ 鳶も見ん糺の森の冬紅葉
( とびもみん ただすのもりの ふゆもみじ )
最近は、穏やかに晴れた冬日和が続いている。大変ありがたく、先日は久しぶりに鴨川に立ち寄った。水辺には沢山の水鳥が泳いでいたが、ふと上空を見ると、数羽の鳶(とび)が空高く飛んでいた。
ところで、「糺の森」といった固有名詞(地名、寺社・施設名、人名など)を使う時に、どういう留意点があるのか、念のため調べてみた。比較的分かりやすく書かれていたのが藤田湘子著「新実作俳句入門」で、そこには、要点として、
① その名に普遍性があること、
② 言葉としておもしろいひびきやイメージを持
っていること
のどちらかであると記載されていた。
①の普遍性があるとは、名前が広く知られているということのようだが、確かに知られていなければ、句の味わいようがない。ただ、自分だけの思い出として、あるいは仲間内で詠む場合は、自由に使って構わないようにも思う。逆に有名な場所であっても、行ったことがなければ、味わいようもない。
次に②の「言葉としての面白さ」であるが、事例として、以下の句が掲載してあった。
事例:祖母山も傾山も夕立かな (山口青邨)
祖母山(そぼさん)も傾山(かたむくさん)も、九州の阿蘇山の近くにある山だそうだが、名前も聞いたことのないような山である。しかし、その山の名の響きに何かを感じさせるものがある。ただ面白いかどうかは個人差があるので要注意とのこと。
さて、話は戻って、本日の掲句で使った「糺の森」はどうだろうか。この森は、世界文化遺産にも登録されている「下鴨神社」の森である。だからそこそこ名前が知られていると想像する。また、名前には、神々の審判する=糺す(ただす)という意味があり、何か神聖なものを感じさせる。以上から上記①、②合わせ持って良しとしておきたい。
【固有名詞を使った参考句】
荒海や佐渡によこたふ天の川 (松尾芭蕉)
阿蘇山頂がらんどうなり秋の風 (野見山朱鳥)
初冬の竹緑なり詩仙堂 (内藤鳴雪)
神田川祭りのなかを流れけり (久保万太郎)
淡雪の消えてしまえば東京都 (加藤楸邨)