■ 実万両足るを知りたる姿かな
( みまんりょう たるをしりたる すがたかな )
時節柄、花はほとんど咲いていなかったが、時折目に入ってきたのは、南天、万両、千両などの赤い実。
特に万両は、南天と違って背丈はあまり高くないが、こじんまりとまとまり、葉の下にいくつも赤い実を垂らした姿は、しっとりと落ち着いた風情がある。
本日の掲句は、そんな万両を見て詠んだ句である。中七の「足る」は「垂る」を重ねたもの。また、「足るを知りたる」は「知足」を意識したもの。「実万両」は「万両」「万両の実」とともに冬の季語。
*知足(ちそく):分相応のところで満足する。「老子」の「足るを知る者は富む」から。
尚、本句は昨年詠んだ以下の句を修正したものである。
足ることを知れば安心実万両
余談だが、万両とは現在のお金に換算するとどれくらいなのか。かつて調べたところによれば、一両がおよそ10万円~30万円。だから万両は10億円~30億円ぐらいになる。
これだけあれば大満足なはずだが、小心者にはちょっと恐ろしい金額で、かえって気が休まらないのではないかとも思う。
話は戻って、「万両」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 千両も万両もある古刹かな
② 千両万両役者揃いし裏参道
①は、ある古い寺の庭に千両、万両がところどころに植えてあり、沢山の実がなっているのを見て詠んだ句。
②は、歌舞伎などで使われる「千両役者」にかけて作った句である。千両、万両は、この時期の裏参道の花形と言えないこともない。
万両は、ヤブコウジ科ヤブコウジ属の常緑小低木。花期は7月~8月で白い花を咲かす。11月~12月頃に赤い果実をつける。黄色の実の「黄実万両」、白い実の「白実万両」がある。
名前は、「千両」よりも実が重いから葉の下に実がつき、しかも沢山なるということでつけられたと言われている。(異説あり)特に、名前がめでたいので、「千両」とともに正月の縁起物とされている。
「万両」を詠んだ句は多く、本ブログでも何句が紹介したことがあるが、以下にはそれ以外のものを掲載した。
【万両の参考句】
杉苔に万両溺れ寂光土 (富安風生)
万両のひそかに赤し大原陵 (山口青邨)
座について庭の万両憑きにけり (阿波野青畝)
万両の日にぬくみゐる我もまた (森澄雄)
万両や着丈合ひたる借衣裳 (飯田龍太)