■ 水澄みて蓼も桜に咲きにけり
( みずすみて たでもさくらに さきにけり )
「蓼(たで)」と言えば、「蓼食う虫も好き好き」という諺を思い出すが、実のところ、タデ科に属する植物は非常に多い。
北半球だけでも約40属1000種類が分布しており、日本には約60種類が自生していると言われている。
その中でも、特に清楚で美しいのが、本日取り上げた「桜蓼(さくらたで)」。名前の通り、花が桜のような形をしている。
掲句は、そんな蓼の花を見て詠んだ句だが、小林一茶の以下の句をまねて詠んだもの。
我が国は草も桜を咲きにけり
これは、春の桜草を詠んだもの。日本人は本当に桜が好きなんだなという感慨を込めて詠まれたものと思う。
尚、掲句では、「蓼の花」が秋の季語になるが、上五に「水澄む」という秋の季語をおき、敢えて季重なりとした。それは「桜」という春の季語を弱めることを意図したもの。
ところで、「水澄む」だが、これが秋の季語だと知った時は少し意外だった。何も秋だけ澄むことはないだろう。むしろ冬の方が澄んでいるのではないか。そんな疑問が湧き、科学的にはどう説明されるのかネットなどで調べたが分からなかった。
とは言うものの、感覚的に言えば、夏のむっとする空気が透き通った感じになり、水も不純物が沈殿し清くなったような感じは確かにする。
話は戻って、「桜蓼」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
たでたでと言えど麗し桜蓼
たで、たでと軽く言われるが、中には見目麗しい桜蓼という蓼もあると詠んだもの。
桜蓼(さくらたで)は、タデ科イヌタデ属の多年草。花期は、8月から10月頃。花弁はなく、花びらに見えるの萼片。花が白い「白花桜蓼」、桜色に咲く「紅花桜蓼」がある。
「蓼の花」を詠んだ句は多いが、特別に「桜蓼」を詠んだ句はほとんど見つからなかった。そこで参考句は、あまり取り上げたことのない、「水澄む」に関するものを掲載した。
【水澄むの参考句】
水澄みて虫もをらざる刈田かな (高浜虚子)
水澄みて金閣の金さしにけり (阿波野青畝)
水澄むやとんぼうの影ゆくばかり (星野立子)
水澄みて四方に関ある甲斐の国 (飯田龍太)
水澄むや物皆古き法隆寺 (岸本尚毅)