■ 秋の日にそろり近づくおとこ蜘蛛
( あきのひに そろりちかづく おとこぐも )
蜘蛛と聞くと、気持ち悪く嫌いだという人も多いと思うが、かくいう自分もそうだった。ただ、「女郎蜘蛛(じょろうぐも)」を見てからは、その思いが幾分違ってきた。
写真の蜘蛛が、まさしくその蜘蛛。身体に迷彩服のような模様があり、脚は、黒と黄色の縞模様。ぱっと見は、けばけばしく毒々しい感じだが、慣れてくると艶やかで美しいと思えてくる。
古人もそのように感じたようで、名前に「女郎」をつけた。この言葉は、近世では遊女の別称として使われたが、もともとは、貴族の令嬢・令夫人を称する敬語として使われていた。
我が散歩道では、今まさに、この女郎蜘蛛を沢山見ることができる。大きく目立つのが雌で、2cm~3cmぐらいに成長し、まるまると肥えてきている。
一方、雄の方はというと、水馬(あめんぼう)を小さくしたようにやせ細っていて、雌の巣の中にじっと居候している。その唯一最大の役割は、交尾して子孫を残すことだが、これがまた大変で首尾よくやらなければ雌に食われてしまう。だから、いつも常に背後に回って機会をうかがっている。
前書きがかなり長くなったが、本日の掲句は、そんな女郎蜘蛛の雄に悲哀を感じつつ詠んだ句である。「男はつらいよ」の連想から、下五は「おとこ蜘蛛」とした。ただ本句は、かなりマニアックな句なので、女郎蜘蛛の生態を知らなければ、悲哀などは感じられないかもしれない。
尚、「蜘蛛」は夏の季語なので、上五には、秋の季語の「秋の日」をおいた。
因みに、「女郎蜘蛛」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 女郎蜘蛛欲しくば命かけるべし
② 秋闌けてお腹でっぷり女郎蜘蛛
①は、命がけで求愛(交尾)を試みる雄を意識して詠んだ句。
②は、秋も闌(た)け、子供を産むために栄養をつけて、まるまると肥えてきた女郎蜘蛛の雌を見て詠んだ句。
「女郎蜘蛛」を詠んだ句は少ないが、ネットで見つけたいくつかの句を参考まで以下に掲載した。
【女郎蜘蛛の参考句】
女郎蜘蛛足に金の輪染めてをり (粟津松彩子)
女郎蜘蛛網繕ひを怠らず (高澤良一)
糸を吐く静かな殺気女郎蜘蛛 (古市絵未)
女郎蜘蛛潜んでをりし裏鬼門 (山元四郎)
女郎蜘蛛己が囲にゐてみじろがず (釣巻由美子)