■ 君の名は。夢に恋する思い草
( きみのなは。 ゆめにこいする おもいぐさ )
花の姿が、16世紀後半に南蛮人(現ポルトガル人)か日本に持ち込んだ喫煙具の煙管(きせる)に似ていることから、その名がついたそうだ。
写真を見れば、十分納得いただけると思うが、実のところ、この花には、「思い草(おもいぐさ)」という古くからの名前がある。
花の姿が、草の陰で慎ましく、小首を傾げて「もの思いに耽っている姿」を連想させることから付けられたと言われ、万葉集にも以下の歌が詠まれている。
道の辺の
尾花が下の 思ひ草
今更々に 何か思はむ
今更々に 何か思はむ
(詠み人知らず)
*道端の尾花(おばな)の元に咲いている思い草のように、いまさら、何を思い迷うことがありましょうか。私はあなたの愛を信じ、あなた一人を頼りに思っております。
前書きがかなり長くなったが、本日の掲句は、そんな「思い草」を、今まさに上映され、大ヒットしているアニメ映画「君の名は。」にかけて詠んだ句である。「南蛮煙管」「思(い)草」は秋の季語。
ところで、「君の名は」と聞けば、年配の人は、1950年代初頭のラジオドラマ、あるいは映画を思い出されるのではないだろうか。しかし、今上映されているアニメ映画は、それとは全く関係がない。
映画のタイトルは、それと区別するためか、「君の名は。」と句点がついている。その響きが何となく懐かしく、こういう新しい映画も一度は見ておこうと思い、若者に混じってこっそりと見に行ったのだが、思っていた以上に良かった。
内容は、田舎町で生活している少女と東京に住む少年が、夢の中で心が入れ替わるという奇妙な体験を通じ、互いにひかれ合うというもの。ストーリーは奇想天外だが、若い男女が名も知らぬ人に思いをめぐらすというのは、昔も今も変わらない。久々に胸が熱くなった。
因みに、「南蛮煙管」については、過去に以下の句を詠んでいる。
骨董の風格もあり南蛮煙管
喫煙具の「南蛮煙管」は、今や古道具屋でしか見られない「骨董品」になっている。
「思(い)草」こと「南蛮煙管」は、ハマウツボ科ナンバンギセル属の一年草。葉緑体をもたないため自活できず、ススキ、チガヤ、ミョウガなどの根に寄生する。原産地は日本。茎はごく短く、ほとんど地上に出ない。7月から9月ごろ、長い花柄を伸ばして、その先に淡い紫紅色の花を咲かせる。
【南蛮煙管、思草の参考句】
異草にまぎれてかなし思ひ草 (富安風生)*異草(ことくさ)
横向いてゐるのが不思議思ひ草 (後藤比奈夫)
穂すすきにむらさきにじむ思ひ草 (石原八束)
額に皺よせて南蛮煙管かな (川崎展宏)
思草あるやと刻み足とれり (茨木和生)
思草あるやと刻み足とれり (茨木和生)