■ 鷺草の白羽連なる沢辺かな
( さぎそうの しらはつらなる さわべかな )
その草花は、植物をできるだけ自然の状態で見せる植物生態園の小川に植えてあり、丁度花の見ごろを迎えていた。
見た印象は、名前の通り、白鷺が群れて飛んでいる感じであり、何とも言えぬ、優美な光景をなしていた。
本日の掲句は、そんな様子をそのまま詠んだものである。鷺草は、晩夏より咲く花で、夏の季語。
余談だが、掲句の中七にある「白羽(しらは)」は、単に白い羽の意で使ったのだが、念のため確認すると、一般的には弓矢の白い羽のことをいうそうだ。
そして、今もよく使われる「白羽の矢が立つ」という言葉は、神の生贄として差し出される少女の家の屋根に、目印として白羽の矢が立てられたことに由来する。
すなわち、多くの中から犠牲者として選ばれることが、この言葉の本来の意味である。しかし、いつしか、矢を的に当てるという連想により、多くの中から抜擢されることの意味で使われるようになったとのこと。
話は戻って、鷺草に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
鷺草やつがいで大空翔るごと
この時咲いていたのは数輪であり、それを「つがいの鷺」として詠んだ。
*つがい(番):動物の雄と雌の一組み。 *翔る(かける):空高く飛ぶ。飛翔(ひしょう)する。
鷺草は、ラン科サギソウ属(ミズトンボ属)の多年草。原産地は日本、台湾、朝鮮など。日当たりの良い山野の湿原などに生える。花期は7~9月。30~40cm位の直立した茎に1~5輪の純白の花をつける。花は唇弁の先端が3つに割れ、その左右の裂片には多数の深い切れ込みがある。
名前は、花の形が、白鷺が翼をひろげて舞う姿に似ていることからつけられた。別名に「白鷺草(しらさぎそう)」「鷺蘭(さぎらん)」がある。
「鷺草」を詠んだ句はままある。その中からいくつか選定し以下に掲載した。
【鷺草の参考句】
鷺草の落せし羽を拾ひけり (阿部みどり女)
鷺草のおくれ咲きしも翔けそろふ (水原秋桜子)
鷺草の鷺は二羽連れ二羽の露 (石原八束)
鷺草の揺るるに心ねむりをり (宮津昭彦)
鷺草の白極まりてはばたけり (篠田恵衣子)