■ 不揃いの花梨虚空に揺れてあり
( ふぞろいのかりん こくうに ゆれてあり )
最近ところどころで、林檎(りんご)ぐらいの大きさの果実が、小高い木にぱらぱらとなっているのを見る。まだ葉が緑でたくさんあった時は、それほどでもなかったが、黄葉し散り始めるとだんだんと目立ってくる。
だから、蜂蜜漬けやジャム、花梨酒などに加工して用いられるそうだが、面倒なのか誰も採る人がいない。掲出句は、そんな花梨の果実が、鈍色(にぶいろ)の空をバックに、揺れているのを見て詠んだ句である。
上五で使った「不揃いの」は、かつて「不揃いの林檎たち」というTVドラマがあり、そのタイトルがふと頭に浮かんだので使ってみた。残念ながらドラマは見ていない。
尚、「花梨(榠樝とも書く)」「花梨の実」は秋の季語なので、本句は秋の句とする。「かりんの花」は、春の季語。
花梨は、バラ科ボケ属の落葉高木で、原産地は中国東部。日本には1000年以上前に渡来したとのこと。花期は、3月~5月頃で、花は、同じ属の木瓜(ぼけ)に似ている。 果実は香りがよく、咳や痰など喉の炎症に効くとされ、のど飴に配合されていることが多い。
語呂合わせで「金は貸すが借りない」の縁起を担ぎ庭の表にカリンを植え、裏にカシノキを植えると商売繁盛に良いとも言われているそうだ。うむうむ、なるほど。
秋風の榠樝二三顆寝て見ゆる (臼田亜浪)
生家にもくわりん二十は付いている (阿波野青畝)
くらがりに傷つき匂ふかりんの実 (橋本多佳子)
枝撓むほどになりたる花梨かな (瀬島洒望)
売り家の庭に花梨が熟れている (川上杜平)