■ 逍遥の道の枯木の影の濃し
( しょうようの みちのかれきの かげのこし )
本日の掲句は、その様子を詠んだ句である。「の」を繰り返すことで浮き立つ調子を出すことを少し意図して詠んだ。本句では「枯木」が冬の季語。
ところで、絵画などで光と影(陰)がテーマになることがあるが、俳句でも特に写生句の場合、これらを意識することが多い。ただ、「かげ」という言葉には、いろいろな意味があるようで、以下にその要点を整理してみた。
●「かげ」と読む漢字には、「影」「陰」「蔭」「翳」がある。
●「影」は、「エイ」とも読み、以下の意味がある。
1)光が物にさえぎられ、その物の後ろに生ずる暗い部分。「木の影・暗影・影絵」
2)背景から浮き上がって見える形。水や鏡に映った形。「山影・樹影・船影」
3)光で見える物の姿・形。「人影・撮影・遺影」
4)日・月・星・灯火・かがり火の光。「日影・月影・星影」
●「陰」は、「イン」とも読み、以下の意味がある。
1)日光や風雨の当たらないところ。「日陰・樹陰・山陰」
2)物などに隠れて見えない所。「物陰・岩陰・木陰」
3)うつりゆく日かげ。時間。「光陰・寸陰・分陰」
4)易学の陰陽二元説で、消極的・受動的な方の性質をいう。「陰性・陰気・陰極」
●「蔭」は「陰」と同様に使われるが、「陰」は「ものかげ」、蔭は「くさかげ」「こかげ」といった感じ。「翳」も「影」「陰」と同様の意味で使われることがあるが比較的少ない。
【関連句】
① わが影も浮かべて咲けり睡蓮花
② 夕暮れて神木に見ゆ猿の影
③ 昼顔や人影もなき町の路地
①は、自分の姿を水に映して咲いている水連の花を見て詠んだ句。何とも優雅であり、涼しげな感じがした。
②は、夕暮れ時に神社から帰ろうとした時、神木に猿のような影を見て詠んだ句。実際に猿を見た訳ではない。
③は、誰もいない昼下がりの住宅街の路地で、昼顔が花を咲かせているのを見て詠んだ句。
【影の参考句】
木の影や我影動く冬の月 (正岡子規)
高原の向日葵の影われの影 (西東三鬼)
鶏頭を離るる影と残る影 (綾部仁喜)
島の影岩の影秋深みかも (行方克己)
わが影と呼び合ふ影もなき枯野 (橋本榮治)