■ 人気なきベンチ温める冬日かな
( ひとけなき べんちぬくめる ふゆびかな )
開園時刻の9時を少し過ぎた頃に着き、いつもの通り正面入口から入ったが、予想通り閑散としていて裸木ばかりが目立った。そんな中、柔らかい日差しがベンチに当たり、明るく光っていたのが見えた。
本日の掲句は、そんな景を見て詠んだ句である。上五の「人気なき」は、「ひとけなき」と読み、「人のいそうな気配がないこと」をいう。「にんきなき」と読めば全く別の意味の句となる。
冬日は冬の季語。「冬の一日」あるいは「冬の太陽(日差し)」の両方の意味で使われるが、本句では後者の意味で使用した。余談だが、気象用語では「一日の最低気温がセ氏零度未満の日」のこと。
ところで、今回は「ベンチ」に注目して句を詠んだが、これまで人工物に関しては、あまり句に詠むことはなかった。植物などと違って季節性、生命感が感じられないからである。今回は、ベンチという人工物を詠むことで、ある状況において見た時に様々に語りかけてくることに気づいた。
① 池広し月にベンチのあるほかは (永井龍男)
広い池、月、ベンチのある風景。静寂感あり
② 秋風の人に掛けよとべンチあり (湯浅桃邑)
秋風が掛けよと語りかけてきたのは何故?
③ 冬麗の陽を載せ誰も居ぬベンチ (楠本憲吉)
本日の掲句と着想が似ている。さて良否は?
母子の語らいのベンチ。多分日陰で休憩しながら。
⑤ 緑蔭に舫ひし如く木のベンチ (行方克己)*舫う(もやう):船を繋ぎとめる
木のベンチを船に見立てたところが面白い。
⑥ ベンチみな老人が占め子供の日 (竹内柳影)
多少とも皮肉を込めた、滑稽味のある川柳風の句。
こう見てみるとベンチも結構面白い素材であることが分かる。
春日和ベンチに寝ぬる人も見ゆ *寝ぬ(いぬ)
早春のある晴れた日、公園を散歩していた時に見た景を詠んだもの。
尚、「冬日」の参考句も掲載しようと思ったが、焦点がぼけるので今回は割愛した。