■ シロップのごとき滴や実南天
( しろっぷの ごときしずくや みなんてん )
本日の掲句は、そんな様子を見て詠んだ句である。尚、南天は単独では季語にならず、「南天の実」「実南天」で冬の季語となる。(秋の季語にするところもある)「南天の花」「花南天」は夏の季語。
ところで、「しずく」を漢字で「滴」と記したが、別に「雫」という漢字がある。どう違うのか調べたところ、以下のような説明があった。
雫・・・雨のしたたり落ちる状態(自然現象)
滴・・・物理的な水の状態(水滴、一滴二滴)
本句では、雨のしたたりなので「雫」なのだろうが、シロップに例えたので「滴」とした。尚、常用漢字には「雫」が入っておらず、国語テストでは「滴」が正解だそうだ。
*余談だが「雫」は日本で作られた国字。
それにしても、漢字というのは実に面白い。恐らく、その魅力は、アルファベットなど表音文字しか使わない人達には全く理解できないことだろう。漢字を発明した古代中国人、それを継承し、発展させ、定着させてきた日本の先人には深く感謝したい。
【関連句】
① 実南天難多ければたわわなり
② 実南天葉ももみづれば赤尽くし
①は、どの家にも南天が植えてあるのを見て、「世の中には難が余程多いのだろう。実南天があんなにたわわに実っている。」と詠んだもの。②は、基本的に常緑である南天の葉が真っ赤に紅葉しているのを見て詠んだ句。「もみづれ」は、古語の「もみづ(紅葉づ)」の已然形。
名前は、漢名の「南天燭」(赤い実を灯と見立てた)に由来している。音が「難を転ずる」に通じることから、縁起の良い木とされ、鬼門または裏鬼門に植えると良いなどという俗信がある。
【実南天の参考句】
実南天紅葉もして真紅なり (鈴木花蓑)
小雪の朱を極めたる実南天 (富安風生)
実南天たわわにも年あらたまる (大峯あきら )
比叡より一雨あるか実南天 (高澤良一)
こころして雨滴を抱きぬ実南天 (加藤哲也)