■ 合歓を「ねむ」と読みける花の艶
( ごうかんを 「ねむ」とよみける はなのつや )
この花の名前の「ねむ」は、周知のとおり、夜になると葉を閉じて眠ったようになることに由来する。花の柔らかい印象からも「眠り」を連想させ、ぴったりの名前のように思われる。
一方、当て字の「合歓」は中国名からきている。ただ、この合歓(ごうかん)には、「男女が共寝して相歓び合う」という意味があり、夫婦円満の象徴として付けられたということは、意外と知られていないのではないだろうか。
「ねむ」という言葉には、親が幼児をあやすような響きがあるが、「合歓」には、もっと大人びた艶っぽい意味が込められている。そんなことを知り、詠んだのが掲句である。「合歓の花」は「花合歓」ともいい夏の季語。
ところで「合歓の花」といえば、有名な句に松尾芭蕉の以下の句がある。
象潟や雨に西施がねぶの花
この句では、「ねむ」のことを「ねぶ」と詠んでいるが、もともとは「ねぶ」で、それが音変化したものが「ねむ」だと言われている。「けぶり」を「けむり」「と言うようになったのと同じ。
*象潟(きさかた):秋田県所在の地名 *西施(せいし):中国、春秋時代の越の美女。
芭蕉がいた時期に「ねむ」と呼ばれていたかどうかは定かでないが、敢えて珍説を述べれば、上句で「ねむ」でなく「ねぶ」と詠んだのは、その響きが「愛撫」「慰撫」などに通じ、少々艶っぽい感じを出すためではないかと思う。試みに「ねむ」とし、読み比べてみていただきたい。
【関連句】
① くすぐれば夢にほほ笑む合歓の花
② 見上げれば紅透けてあり合歓の花
③ 覚めざるを願う夢みし合歓の花
①は、乳飲み子が、母親に抱かれてぐっすりと眠っている様子をイメージしたもの。②は合歓の花の咲いた景をそのまま詠んだ句。③は、夢の中で、覚めないで欲しいと願ったが、覚めてしまったという体験を詠んだ句。
「合歓の花」が詠まれた句は、これまでも何句か紹介したことがあるが、今回はそれ以外のものを幾つか以下に掲載した。
【合歓の花の参考句】
真すぐに合歓の花落つ水の上 (星野立子)
九時過ぎてなほ明るしや合歓の花 (加藤楸邨)
合歓の花沖には紺の潮流る (沢木欣一)
虹消えて虹の睫毛を合歓の花 (矢島渚男)
合流の白濁はるか合歓の花 (西村和子)