■ ちりちりと咲いて風呼ぶ花楓
( ちりちりと さいてかぜよぶ はなかえで )
3月終わり頃から、近所の楓(かえで)が芽吹き、花をつけ出した。花といっても非常に貧弱なものだが、よく見れば小さく細い花弁と蕊をちゃんと備えている。本日の掲句は、そんな楓の花を見て詠んだ句である。
ところで、花楓に関しては、毎年同じような景を見て、以下のような句を詠んできた。
【関連句】
① 花かえで遠慮深げに咲きにけり
② もみじにも塵のようなる花の咲く
③ ちりちりとちりのごとくにもみじさく
このように並べてみると、あまり変わり映えしないが、作者本人としては、多少違う視点から詠んだつもりである。
すなわち、①は、中七の「遠慮深げに」という言葉に、秋の美しい紅葉に比べて、いかにも控え目だという意味を込めた。②は、楓は、新緑や紅葉ばかり注目されるが、もみじ=かえでも塵のような花をちゃんと咲かせているという句意。③は、②とほとんど変わらないが、今年もちりちりとした花を健気に咲かせたという感慨を詠んだ。
考えて見れば、同じものを見て句を詠む場合、似たような句ができるのは当然である。だから、無理に全く違う視点を求めて、句を詠む必要もないと最近思うようになってきた。
以前の句が良ければ、それはそれで良いのであって、それを今度は読み手として鑑賞すれば良い。気に入らなければ、修正したり、あるいは改作して、より良いものにしていけば良い。
花が散った後は、よく見られるプロペラ状の種子ができるが、「楓の種」は季語にはならず、夏の季語としては「楓若葉」「青楓」などが使われる。更に秋には「楓紅葉」が季語となる。
【楓の花などの参考句】
子雀に楓の花の降る日かな (長谷川かな女)
花楓風の汀の近づけり (岸田稚魚)
御手洗に楓の花のこぼれゐし (柴山つや子)
雨粒を溜めて夕日の花楓 (河本好恵)
花楓水屋に若き声はづむ (椎橋清翠)
子雀に楓の花の降る日かな (長谷川かな女)
花楓風の汀の近づけり (岸田稚魚)
御手洗に楓の花のこぼれゐし (柴山つや子)
雨粒を溜めて夕日の花楓 (河本好恵)
花楓水屋に若き声はづむ (椎橋清翠)