■ 桜散る地は花韮の盛りかな
( さくらちる ちは はなにらの さかりかな )
連
日の雨で近辺の桜はほとんど散ってしまった。樹下は今散った花びらですっかり覆われているが、その中に今が盛りと群生している花韮(はなにら)を所々で見る。この花は六弁の星型だが、色が白く桜と見紛う感じである。
本日の掲句は、そんな花韮を見て詠んだ句である。写生の句ではあるが、特に韻律(リズム)を重視した句でもある。この句は、「花散る」「花韮」がともに春の季語なので季重なりの句。
ところで、日本語の場合、アクセントが弱く、音節の長さがほぼ同じなので、音数をもって韻律が作られる。特に、五音と七音の繰り返しの音数律が良いとされている。俳句・川柳は五七五、短歌は五七五七七、長唄は五七五七・・・・・五七七。
更に、韻律で重要なのは音感や調べ。言葉の長短と強弱、連続と休止、母音と子音の響き合い、押韻(頭韻、脚韻)や繰り返し(リフレーン)などがいろいろと研究されているようだが、なかなか理屈通りにはいかないようだ。
結局、韻律の良し悪しは、声を上げて読んでみて、作者の思いや情景が自然と頭に浮かび、感動が心地よく伝わってくるかどうかなど、感覚的に掴むしかないように思う。
そう記したところで、再び掲句を読んだ時に果たしてどうだろう。一応、結果的には「あ音」を10個使った句で、比較的読みやすいと思うがどうだろう。
さくらちる ちは はなにらの さかりかな
因みに、これまで花韮で詠んだくとしては、以下のものがある。
桜にも負けじと花韮群れ咲きぬ
これは、桜が満開に咲いている道端で群生していた花韮を見て詠んだ句。まるで桜と競うがごとく咲いていた。
名前は、葉が韮に似ており、ちぎると韮特有のにおいがすることから付けられたとのこと。別名は西洋甘菜(せいようあまな)。
尚、普通の韮は、ネギ科ネギ属で、花は秋に咲くがほとんど似ていない。また、食用にも「花韮」というものがあるが、これは全く別のもの。本稿の花韮は有毒で、食べると中毒になるとのこと。
【花韮の参考句】
花韮や歩いて行けば猫神社 (星野麥丘人)
花韮の花賞でらるるそよぎかな (宮津昭彦)
花韮やしやもじを祀る安産寺 (下山宏子)
花韮や学級花壇画然と (桜間ひろし)
花韮のはかなきまでに白き日々 (中嶋秀子)