■ 熊笹の隈鮮やかに冬ざるる
( くまざさの くまあざやかに ふゆざるる )
本日の掲句は、その熊笹が繁茂している光景を目にして詠んだ句である。中七で使った「隈(くま)」とは「目の隈」などで使うが、必ずしも黒色でなく、明暗の境目のこと。熊笹の場合はそれが白く鮮やかである。季語は「冬ざるる」(冬)。
*冬ざるる:冬の風物の荒れさびた感じ。
ところで、竹や笹は、近辺でほとんど見られなくなったが非常に良く知られた植物なので、Wikipediaなどを参考に少し概要を調べてみた。以下その要点を記す。
●タケ類にはタケ(竹)とササ(笹)とバンブーがある。タケとササは地下茎で生育繁殖するが、バンブーは分蘖(株分かれ)によって株立ち状になる。
●タケとササの主な違いは、以下の通り。
・タケの竹皮は生育後落下するが、ササは生育後も着生している。
・タケの葉には格子目があるが、ササにはそれがなく縦に伸びる平行脈である。
・タケの開花は約120年周期、ササは40年から60年周期。
●日本に見られるタケの多くは帰化植物でほとんどは中国原産。ササは日本産のものが多い。
熊笹は、言うまでもなく、ササ類(イネ科ササ属)の植物である。地下茎で広がり、一帯にぎっしりと葉を繁らせる。丈は1.5mほどで、葉は大きいもので長さ20~25cm、幅4~5cmほどになる。
正式には隈笹と書くが、これは、冬になると緑色の葉の弱い部分が枯れ、まわりに隈(くま)ができるからだと言われている。それが、熊笹と書かれるようになったのは、野生の熊が冬眠前後に、この葉をたくさん食べることによるとのこと。俳句では何故か熊笹と書くことが多い。
余談だが、旧飛騨国(現岐阜県北部)では、熊(隈)笹の実のことを「野麦」といい、、凶作の年にはその実を食べて飢えをしのいだといわれている。著書「女工哀史 あゝ野麦峠」の「野麦峠」という地名はこれに由来するそうだ。
熊(隈)笹は季語でないので、ほとんどが他の季語との取り合わせで詠まれている。以下では、特に冬の季語との取り合わせで詠まれた句を選んで掲載した。
【熊(隈)笹の参考句】
ふるるものを切る隈笹や冬の山 (渡辺水巴)
熊笹や湯壷に落つる斑れ雪 (桂信子) *斑れ雪(はだれゆき)
熊笹にしばらく寒の入日かな (木下夕爾)
熊笹に雪のこぼるる七五三 (岸田稚魚)
熊笹に野麦峠の霰かな (沢部幹雄)