■ 実南天葉ももみづれば赤尽くし
( みなんてん はももみづれば あかづくし )
今、我が散歩道は、山茶花が咲いているくらいで、花らしきものがほとんど見られなくなった。そんな中、目立つのが南天の赤い実である。南天は「難を転ずる」に通じることから縁起の良い木とされているが、そのせいか、各家の庭や玄関前などに必ずと言ってよいほど植えられている。
本日の掲句は、そんな南天の中で、早々と葉っぱが赤く色づいたものを見て詠んだ句である。赤い実を包むように、葉も赤く色づいた姿はなかなか美しい。中七で使った「もみづれば」という語句は、古語の「もみづ(紅葉づ)」の已然形「もみづれ」に接続助詞「ば」が付いた形で「紅葉したので」の意。
尚、南天は単独では季語にならず、「南天の実」「実南天」で冬の季語となる。「南天の花」「花南天」は夏の季語。
因みに「実南天」で過去に詠んだ句としては以下のものがある。
【関連句】
① 実南天難多ければたわわなり
② 松竹に実南天さし恙なき
①は、どの家にも南天が植えてあるのを見て、世の中には難が余程多いのだろう。実南天があんなにたわわに実っていると詠んだもの。②は、門松にさされている実南天を見て詠んだ句。ここでも縁起の良い木として使用されている。
南天は、メギ科ナンテン属の常緑低木。中国原産。初夏に白い花が咲かせ、晩秋から初冬にかけて赤色(まれに白色)の丸い果実をつける。
南天の名前は、漢名の「南天燭」(赤い実を灯と見立てた)に由来しており、「難を転ずる」という意味は元々ない。ところが洒落(しゃれ)で「南天」=「難転」となり、「難を転ずる」となった。
余談だが、「南天」のように駄洒落、語呂合わせなどで縁起物になったものは結構多く、例えば以下のものが挙げられる。
【鯛】 目出度い=めでたい 【昆布】 喜ぶ=よろこんぶ、子生婦=こうぶ
【橙】 子孫が代々(だいだい)繁栄する 【黒豆】 まめ(勤勉)に働き、まめ(健康)に暮らす
【鰹節】 勝男武士 【するめ】 寿留女
【狸】 他(た)を抜く=商売繁盛 【数の子】 子孫繁栄 など
他にも挙げればきりがないが、こんなものを信じてどうすると思う反面、こんなものを信じる?日本人の大らかさ、大まかさをしみじみ感じる。
参考句は実南天で詠んだものをいくつか掲載する。
実南天二段に垂れて真赤かな (富安風生)
実南天柄まで真紅や自若たり (中村草田男)
億年のなかの今生実南天 (森澄雄)
実南天鴎外旧居北向きに (松崎鉄之介)
水洟やどこも真赤な実南天 (波多野爽波)