■ 天高く肥ゆるはけばき女郎蜘蛛
( てんたかく こゆるは けばき じょろうぐも )
蜘蛛(くも)はどちらかというと苦手だが、今日紹介する女郎蜘蛛(じょろうぐも)だけは、幾分好感が持てる。掲載の写真の通り、身体に迷彩服のような模様があり、脚は、黒と黄色の縞模様。ぱっと見は、けばけばしく毒々しい感じだが、慣れてくると艶やかで美しいとも感じられる。
中七で使った「けばき」は、口語の「けばけばしい」を略した「けばい」を文語調に使ったもの。また、「蜘蛛」「女郎蜘蛛」は夏の季語なので、「天高く馬肥ゆる秋」を意識して、上五に「天高く」と秋の季語をおいた。
*けばけばしい:色彩などがどぎつくて、派手なさま。
ところで、右の写真を見てお気づきの方もあると思うが、大きな蜘蛛の上に、小さな蜘蛛が見える。これは、女郎蜘蛛の雄で、肥えているのは雌。女郎蜘蛛の巣を見れば、大抵、雄雌が対で見られる。
雄が何故いるかと言うと、交尾のためなのだが、うっかりすると食べられてしまうので、常に背後に回って機会をうかがっている。この情景は、いつも雄の悲哀を感じさせ、雄がいない巣に出会うと遂に食べられてしまったかと思わず嘆息する。
因みに、女郎蜘蛛に関しては、過去に以下の句を詠んだ。
【関連句】
① 女郎蜘蛛欲しくば命かけるべし
② 秋闌けてお腹でっぷり女郎蜘蛛
①は、命がけで求愛(交尾)を試みる雄を意識して詠んだ句。②は、秋も闌(た)けてきて、子供を産むために栄養をつけ肥えてきた蜘蛛を見て詠んだ句。掲句と趣向は似ている。
女郎蜘蛛は、ジョロウグモ科ジョロウグモ属に属するクモ。成体の体長は雌で17〜30mmなのに対して、雄では6〜13mmと雌の半分以下。女郎蜘蛛の「女郎」という言葉は、今では遊女などを連想させるが、かつては一般の女性に使われていた。また、身分の高い女官の上臈(じょうろう)になぞらえたとも言われている。
女郎蜘蛛身しろぎもせず神の前 (横山白虹)
天上天下唯我独尊女郎蜘蛛 (粟津松彩子)
山雨過ぎ網を繕ふ女郎蜘蛛 (大久保白村)
女郎蜘蛛外へ外へと荒き絲 (佐々木六戈)
日輪と一対一や女郎蜘蛛 (今岡直孝)
天上天下唯我独尊女郎蜘蛛 (粟津松彩子)
山雨過ぎ網を繕ふ女郎蜘蛛 (大久保白村)
女郎蜘蛛外へ外へと荒き絲 (佐々木六戈)
日輪と一対一や女郎蜘蛛 (今岡直孝)