■ 藤袴よせて古風に女郎花
( ふじばかま よせてこふうに おみなえし )
秋の七草である二つの草花、藤袴(ふじばかま)と女郎花(おみなえし)が重なって咲いているのを植物園で見た。青空をバックに、紫色の藤袴、黄色の女郎花の取り合わせが実に良く、えも言えぬ小景を作っていた。そこで、当初、その景を以下のように詠んだ。
ただこの句は、花を並べただけで趣向が分からないと思い、詠み直したのが本日の掲句である。花の名前から藤色の袴をはく古風な女郎(じょろう)という意味合いをこめて詠んでみた。女郎とは、今でこそ遊女というイメージが強いが、かつては、貴族の令嬢・令夫人を称する敬語として使われていたとのこと。藤袴、女郎花は、共に秋の季語。
ところで、これらの花はいずれも古くから愛でられた花であり、藤袴は、万葉集や源氏物語にも登場する。名前は、花の色が藤色で、筒状の花弁が袴に似ているということで付いたとのこと。
一方、女郎花の女郎の意味は既に述べたが、読みの「おみなえし」の「おみな」は「女」、「えし」は古語の「へし(圧)」で、美女をも圧倒する美しさから名づけられたとのこと(諸説あり)。
ただ、今日では外国の花が沢山流入してきて、どちらかというと非常に地味な花として見られている。そのせいなのか、近辺ではあまり見られず、残念ながら、いずれも絶滅危惧種になっている。
因みに、過去に藤袴、女郎花で詠んだ句としては以下のものがある。
【関連句】
① 藤袴華やぎし世ぞ偲ばるる
② 藤袴そのもじゃもじゃが気持ち良き
③ 名がためか滅多に会えぬ女郎花
①は、袴をはかなくなった今日を愁い、全盛の世を偲んでいる様子を詠んだ。寓意を含む。②は、藤袴の花の先端から糸のようなもの(雌蕊)が出ているが、吸蜜している蝶も気持ち良さそうだと詠んだもの。③は、「女郎」という言葉は、今は「遊女、娼妓」などのイメージが強く、印象が良くない。そのせいで滅多に見れなくなったのかと詠んだもの。
秋の七草については、山上憶良(やまのうえのおくら)が万葉集で詠んだ以下の歌が元ととなり今に至っている。
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
*指折り(およびをり) *七種(ななくさ)
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花
*尾花(おばな)=芒(すすき) *朝貌(あさがお):現在の桔梗であるというのが定説
*尾花(おばな)=芒(すすき) *朝貌(あさがお):現在の桔梗であるというのが定説
ただ、これでは少し覚えにくいので、五七五七七にあわせて以下のように覚えると良いだろう。
萩尾花 葛撫子に 女郎花 藤袴はく 桔梗の花
( はぎおばな くずなでしこに おみなえし ふじばかまはく きちこうのはな )