■ 見上げみる栴檀ことに芳しき
(みあげみる せんだんことに かんばしき)
何度もその前を通っているのに、見過ごしているものが結構ある。今日紹介の栴檀(せんだん)の花も、よく行く図書館の近くの公園で咲いていたのに長い間気づかなかった。十数メートルもある大木だというのに。
本日の掲句は、そんな栴檀の花を見て詠んだ句である。立ち止まって見上げると花が木全体に重なりながら咲いているのが見え、甘い香りがより濃く漂ってきた。*芳し(かんばし):香りがよい。こうばしい。
ところで、中七に「ことに」と入れたのは、「栴檀は双葉より芳し」という諺(ことわざ)を意識してのことである。双葉でさえ芳しいのだから、成長した大木は当然ながら特に芳しいという意味を込めた。
ただ、この句は厳密にいうと問題がある。諺にある「栴檀」は、実は香木で知られている「白檀(びゃくだん)」のことで、本日紹介の栴檀とは別の種類のものだからだ。「白檀」の別称が「栴檀」で、それが諺の元になったそうだ。
それでは、本日紹介の栴檀の双葉は芳しくないのだろうか。その点に関しては、よくわからない。とはいえ、大木の栴檀は、実際に芳しいので、本句はこれで良しとしておく。栴檀の花は夏の季語。栴檀の実の方は秋の季語となる。
因みに「栴檀は双葉より芳し」とは、将来大成する人物は、幼い時から人並み以上に優れているということを譬えたものだと言われている。
栴檀(せんだん)は、センダン科センダン属の落葉高木。原産地は日本、東アジアで関東以西に分布。花は、薄紫色の小さな花で、紫色の雄しべが雌しべの周りを筒状に囲んでいるのが特徴。花期は5月下旬から6月初旬。
名前は、秋に実が枝一面につき、落葉後も木に残るさまが数珠のように見えることから「センダマ」(千珠)の意でつけられたそうだ。(異説あり)別名を楝=樗(おうち、あうち)、アミノキという。
尚、俳句では、栴檀の花の他、樗(楝)の花、花樗(楝)で詠まれることも多い。
どんみりと樗や雨の花曇り (松尾芭蕉)
見返るや門の樗の見えぬ迄 (正岡子規)
栴檀の花散る那霸に入學す (杉田久女)
栴檀の花のさかりの睡き昼 (日野草城)
むらさきの散れば色なき花樗 (松本たかし)
栴檀の花散る那霸に入學す (杉田久女)
栴檀の花のさかりの睡き昼 (日野草城)
むらさきの散れば色なき花樗 (松本たかし)