■ 三椏の三枝三枝に花の燦
( みつまたの さんしさんしの はなのさん )
暦の上では仲春で、もう春の半ばだが、漸く梅も満開になり春らしくなってきた。そんな折、次々と草や木の花も咲きだしてきたが、近辺では三椏(みつまた)の花が開いてきた。特に大輪の黄花を咲かす大輪三椏(写真)は、今満開を迎えている。
句意は、「三椏の三つに分かれた枝々の先に花が燦然と輝きだした」ということで、一応写生の句になっているのだが、実のところ、いろいろな検討の過程でできた語呂合わせの戯れ句。三椏は春の季語。*燦(さん):輝いて鮮やかなさま。
ところで、「三枝」という漢字だが、掲句では「さんし」と読んだ。落語家桂三枝(現桂文枝)が有名なので、大抵の人はそう読むと思うが、これには「さえぐさ」「さいぐさ」という読み方がある。有名人には音楽家の三枝茂彰(さえぐさしげあき)氏がいる。
興味深いのは、この三枝(さえぐさ、さいぐさ)が実は三椏だということ。三椏は、春を告げるように一足先に咲くので、「さきさく」「さきくさ」などとと万葉歌人が呼び、それが転訛して「さえぐさ」「さいぐさ」となったそうだ。
三椏(三又)はジンチョウゲ科、ミツマタ属の落葉低木。原産地は中国中南部、ヒマラヤ地方。12月頃から蕾ができ、それが3月から4月にかけて綻んで、黄色や赤色のラッパ状の小花を密集させて咲かす。沈丁花に似た香りがする。
名前は、 既述の通り、枝が常に三本ずつに分岐することからつけられた。漢字の「三椏」の「椏」は「あ」とも読み、木の股のことをいう。園芸種で赤花三椏(あかばなみつまた)という赤色の花を咲かすものもある。
樹皮には強い繊維があり、和紙の原料として用いられている。皺になりにくく、虫にも強いので1万円札などの紙幣や証紙など重要な書類にも使われているそうだ。
三椏や皆首垂れて花盛り (前田普羅)
三椏のはなやぎ咲けるうららかな (芝不器男)
三椏の花三三が九三三が九 (稲畑汀子)
三椏や英国大使館鉄扉 (佐藤鬼房)
三椏の花それぞれに岐路あれど (河野薫)