■ 廃ビルを覆い尽くせり蔦若葉
( はいびるを おおいつくせり つたわかば )
しかし、「蔦若葉(わかば)」については、これまで取り上げることはなかった。この時期は、比較的取り上げる題材が多かったせいだろう。
今回、敢えて取り上げようと思ったのは、もう何十年も廃ビルのまま放置されている建物の壁一面を、蔦が全面的に覆っているのを見たからである。
本日の掲句は、その様子をそのまま詠んだ句。
これまで何度も見てきたはずだが、改めて見て、その蔦の生命力の強さに驚いた。間違って地球が廃墟になっても、恐らく、こういう蔦が短期間にビルを覆ってしまうに違いない。
尚、「蔦若葉」は、「蔦の若葉」「蔦青葉」「青蔦」ともいい夏の季語。但し、単独の「蔦」や「蔦かずら」、更に「蔦紅葉」は秋の季語。
事のついでに言えば、「草若葉(くさわかば)」は春の季語だが、木々の若葉は夏の季語。個別名を冠した季語としては、「樟若葉(くすわかば)」「柿若葉(かきわかば)」「椎若葉(しいわかば)」「朴若葉(ほうわかば)」などがある。
青蔦の土塀に描く和の心
これは、寺の築地(ついじ)の土壁に青葉を広げている蔦を見て詠んだ句である。その姿が何となく日本画を彷彿とさせたので下五を「和の心」とした。
一方、「夏蔦」は紅葉し落葉する。単独で「蔦」という場合は、大抵この「夏蔦」を指す。また、「蔦若葉」は、この「夏蔦」の青葉をのことをいう。
*木蔦(冬蔦)は、ウコギ科キヅタ属の常緑つる性木本。
葉の方が好まれ、夏は緑のカーテンとして、秋は艶やかな紅葉が愛でられる。
【蔦若葉の参考句】
標札をかくす一枚の蔦若葉 (山口青邨)
僧形となりし少年蔦若葉 (石寒太)
蔦若葉もえて小暗きビルの口 (山田弘子)
蔦若葉磨き込まれし芸に似て (高澤良一)
原宿を雨過ぎにけり蔦若葉 (芹沢統一郎)