■ 別世界星の瞳に見ゆるかも
( べっせかい ほしのひとみに みゆるかも )
先日、野草の繁縷(はこべ)の花を紹介したが、その花が咲いている近くに大犬のふぐり(おおいぬのふぐり)の花も群生して咲いていた。この草花は、小さな瑠璃色の花を咲かせ、たくさん咲くと非常に華やかに見える。それゆえ、野草では比較的よく知られている。
句意は、「大犬のふぐり」なんていう変な名前でなく、「星の瞳」という名前なら別の世界が見えるかも知れないねというもの。ただ、掲句からそこまで読み込めなんて、ちょっとむちゃかもしれないが。
ご存知と思うが、「おおいぬのふぐり」というのは、漢字では「大犬の陰嚢」と書く。ふぐりとは、陰嚢(いんのう)のことで、男性(オス)の睾丸(こうがん)を包む袋のこと。この草の実が、雄犬のそれに似ている事からこの名前が付いたそうだ。
要するに「犬のきん○○」のことなのだが、面白いことに、その尾籠なる言葉が俳句で「犬ふぐり」と短縮して平気で使われている。「きん○○」はあまりにも身近すぎて気恥ずかしいが、「ふぐり」なら大丈夫という訳だ。
だけど、やはりちょっと品がないから、今後は「犬ふぐり」のことを「星の瞳」と呼ぶべきだ。なんていう人もいるが、これが何故か流行らない。悪い名前と思いつつも、一度ついた名前は、面白さも手伝ってか、なかなか変えられないようだ。
かくいう自分も、「星の瞳」と詠んでみたものの、ちょっと少女マンガにでも出てきそうな名前で、それを広めるかどうかについては、現段階では少し微妙であると言わざるを得ない。
因みに、過去には、「犬ふぐり」で以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 野に出でよ犬ふぐりの花元気なり
② 街路樹の下に咲いたか犬ふぐり
①は、「外(ト)にも出よ触るるばかりに春の月」という中村汀女の句の調子を借りて詠んだ句である。②は、街路樹の根元の狭い地面に、懸命に咲いているのを見て詠んだ。
【犬ふぐりの参考句】
いぬふぐり星のまたたく如くなり (高浜虚子)
こんこんと日は恙なし犬ふぐり (森澄雄)
犬ふぐり海辺で見れば海の色 (細見綾子)
下船してさ揺らぐ足や犬ふぐり (能村研三)
野にありて賎しからざり犬ふぐり (山本喜朗) *賎しい(いやしい)