■ 赤つばき落ちてゆるりと苔の上
( あかつばき おちてゆるりと こけのうえ )
2月の中ごろから椿が咲きだして、今方々で落椿(おちづばき)が見られるようになってきた。落椿の句はもう少し先に詠もうと思ていたのだが、あまりにもよく目にするので、上句を詠み本日掲載することにした。
因みに、この句には、その元になった以下の句がある。
赤つばき落ちて今際の清しろう
(あかつばき おちていまわの きよしろう)
中七の今際(いまわ)とは、「死にぎわ。臨終。最期。」のことだが、何故下五が「清しろう」なのか。実は、椿の最期は清く潔い(いさぎよい)という意味の句を詠もうと考えていた時に、「今際(いまわ)が清し」という言葉が浮かび、その言葉から忌野清志郎(いまわのきよしろう)というロック歌手の名前が浮かんできたからだ。
彼は、2009年に享年58歳で惜しまれながら癌性リンパ管症でなくなっており、その生き様や最期がどこか似ているような感じがして、それにダブらせて詠んだのがものである。
忌野清志郎(敬称略)の特別なファンではないが、同年代で、その名前が奇妙なことから記憶に残った。本名でもないのに、何故こんな芸名にしたのか、いろいろと憶測はあるが、今も謎らしい。
ところで、何故椿は落椿というのか。それは周知の通り、桜のように花びらが一枚一枚散らずに、花の姿のまま、ぽとりと地に落ちるからである。その落ち様を人間の死に様などに譬えて潔いと見たり、憐れと見たり、美しいと見たり、評価は様々である。それだけに、落椿を詠んだ句も多い。
以下に、そのいくつかを選び、参考句として掲載した。
椿落ちてきのふの雨をこぼしけり (与謝蕪村)
赤い椿白い椿と落ちにけり (川東碧梧桐)
いま一つ椿落ちなば立去らん (松本たかし)
落椿天地ひつくり返りけり (野見山朱鳥)
椿落ちて椿のほかはみなぶるー (小宅容義)