■ 霜日和お多福南天赤み増す
( しもびより おたふくなんてん あかみます )
名前は「お多福南天(おたふくなんてん)」という。
その由来は「南天」の仲間であり、葉がふっくらして「お多福」に似ているからだそうだ。
「お多福」とは、鼻が低く頬が丸く張り出した女性の顔、あるいは面のこと。
昔は福を呼ぶ好ましい顔立ちとされていたが、美意識の変化からか、最近は不細工な女性を罵る語としても用いられている。
それにしても、「難を転じる」に通じる「南天」、「福をもたらす」という「お多福」を併せ持ったこの植物。何と欲張った名前なんだろう。そんな思いをかつて以下のように詠んだ。
欲張りな お多福南天冬紅葉
もっとも欲張りなのは名前をつけた人間であって、当の「お多福南天」には何の咎(とが)もないが・・・。
上五の「霜日和」とは、朝霜が降りたあとの晴天のこと。「霜晴れ」ともいい冬の季語になっている。「お多福南天」は季語でないので、敢えてこの語を使った。
常緑樹で落葉せず、晩秋から冬にかけ葉っぱに霜が当たると緑色から赤色に紅葉する。面白いことに春になると少しずつ減色して緑色に戻る。
別名に「五色南天(ごしきなんてん)」「阿亀南天(おかめなんてん)」などがある。
【霜日和の参考句】
空色の山は上総か霜日和 (小林一茶) *上総(かずさ)
庭下駄に茶の花摘まん霜日和 (正岡子規)
橋脚に早瀬のからむ霜日和 (石原舟月)
河岸をゆく羽織たらりと霜日和 (飯田蛇笏) *河岸(かし)
薪投げて登り窯たく霜日和 (石原八束)