■ 春寒く木立に雪の花ぞ咲く
( はるさむく こだちにゆきの はなぞさく )
先週末から寒さがぶり返してきて、土曜日の朝はかなり雪も積っていた。かなりと言っても数センチぐらいだが、いつもの散歩道の樹木は、雪で白く覆われていた。立春が過ぎて、暦の上では春に入ったが、そう易々とは暖かくなってくれそうにない。
ところで、俳句は口語体で作っても良いのだが、言葉の調子を整えるために文語体で詠むことが多い。そのため、文語文法を多少なりとも覚えなければならないのがやっかいである。
文語と言えば、中学、高校あたりで少し学んだだけなので、俳句をやりだしてから、取りあえず文語文法に関する本を何冊か読んだ。しかし、すぐに身に付くわけではないので、句を作る時に不確かなものは、その都度確かめるようにしている。
今回、特に気になったのが、掲句の下五で使った「ぞ」についてである。この「ぞ」は、係助詞(かかりじょし)の一つで、語句を強調する言葉であるが、係助詞には、「係結び(かかりむすび)」というものがあり、「文中に用いられた時、それに呼応して文末の活用語が一定の活用形をとる」という決まりがある。それを一覧にすると以下のようになる。
係助詞 機能 結び 用例 意味
(通常文) (終止形) 花の咲きけり 花が咲いた
や 疑問 連体形 花や咲きける 花が咲いたか
か 疑問 連体形 何の花か咲きける 何の花が咲いたか
ぞ 強調 連体形 花ぞ咲きける 花(こそ)が咲いた
なむ 強調 連体形 花なむ咲きける 花(こそ)が咲いた
なむ 強調 連体形 花なむ咲きける 花(こそ)が咲いた
こそ 強調 已然形 花こそ咲きけれ 花こそが咲いた
見ての通り、「こそ」の結びだけが已然形で、その他は連体形である。だから掲句の「花ぞ咲く」の「咲く」は終止形ではなく、連体形ということになる。また、「年の始め」の歌詞が「祝う今日こそ楽しけれ」となっているが、それは「こそ」に「楽し」の已然形「楽しけれ」が呼応するためである。以上備忘の意味もこめ、参考まで掲載した。
【春寒し、春寒の参考句】
春寒し水田の上の根なし雲 (河東碧梧桐)
春寒や竹の中なる銀閣寺 (芥川龍之介)
春寒や竹の中なるかぐや姫 (日野草城)
春寒に入れり迷路に又入れり (相生垣瓜人)
春寒や畳の上の椅子机 (篠田悌二郎)
春寒や竹の中なるかぐや姫 (日野草城)
春寒に入れり迷路に又入れり (相生垣瓜人)
春寒や畳の上の椅子机 (篠田悌二郎)