■ 歌碑蔽う定家葛の川辺かな
( かひおおう ていかかずらの かわべかな )
丁度満開を迎えているようで、小さいプロペラのような黄色の花が、仄かに甘い香りを放っていた。
本日の掲句は、そんな様子を詠んだ句である。「定家葛の花」は夏の季語。因みに、過去には以下の句を詠んでいる。
歌にきく定家かずらの香しき
*香しき(かぐわしき)
ところで、定家葛の「葛(かずら)」とは、蔓(つる)性植物の総称で「蔓」とも書く。昨日取り上げた「クレマチス」もそうだが、調べて見ると蔓性植物は意外と多い。
【草本】 アサガオ、トケイソウ、クズ、スイカ、カボチャ、エンドウ など
【木本】 フジ、モッコウバラ、ブドウ、ノウゼンカズラ、ツタ など
【木本】 フジ、モッコウバラ、ブドウ、ノウゼンカズラ、ツタ など
植物は基本的に光合成によって栄養を得る。そのため、複数の植物が混在する場合、背の高くなるものが有利である。背を高くするには、幹や茎を太くしなければならないが、蔓性植物はそれへの投資を避け、背の高い木に絡まりながら高く伸びる方法をとった。
少々ずるいような気もするが、それは、背の高い植物の中で生きながらえるために編み出した窮余の策。植物界で生き残るのもなかなか大変である。
定家葛(ていかかずら)は、キョウチクトウ科テイカカズラ属の蔓性常緑低木。花期は5月初~9月末までで、7月頃一旦花は途絶えるが、その後新しい枝が伸びてきてまた開花する。
花は、はじめは白く、次第に淡黄色になり、ジャスミンに似た芳香を放つ。観葉植物の「初雪葛(はつゆきかずら)」は、定家葛の斑入り品種。
名前は、式子内親王(平安時代の後白河法皇の第三皇女)を愛した歌人藤原定家(ふじわらていか)が、死後も彼女が忘れられず、この植物に生まれ変わって彼女の墓に絡みついたという伝説(謡曲:定家)に基づくものだそうだ。
藤原定家は鎌倉時代初期の公家の歌人で、「新古今和歌集」、「新勅撰和歌集」「小倉百人一首」を撰進した人として有名である。以下は藤原定家が詠んだ和歌。
来ぬ人をまつほの浦の夕凪に焼くや藻塩の身もこがれつつ
春の夜の夢の浮き橋途絶えして嶺に分かるる横雲の空
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ
「定家葛」を詠んだ句はままあり、以下にネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載する。
【定家葛の参考句】
幽けさの定家かづらの花の白 (後藤夜半)
日蔭より定家かづらは咲き上る (後藤比奈夫)
月さして定家かづらの花匂ふ (福田甲子雄)
離々離々と定家葛の花もつれ (矢島渚男)
虚空より定家葛の花かをる (長谷川櫂)