■ 近づけば虫が舞い立つ花八つ手
( ちかづけば むしがまいたつ はなやつで )
そのことを知人に話したら、大きい葉っぱの八つ手は知っているが、その花は見たことがないと言う。
かく言う自分も数年前までは、八つ手の花について全く知らなかった。あんなに大きい花なのに何故だろう。
結局関心のないものは、どんなものも目に入いらないのだと改めて認識させられた。さすれば、人により見ている世界も微妙に違うと言えよう。
さて本日は、その八つ手の花を取り上げたい。花は、遠くから見るとピンポン玉のように見えるが、近くで見ると小さい花が集まって球状になっていることが分かる。殊に、柔らかな雄蕊を伸ばしている花姿は美しい。
八つ手は、あの大きな葉で魔物を追い払うとも言われ、縁起の良い木として近辺でもよく植えられている。ある朝、その花に惹かれて顔を近づけると、一斉に虫が飛び立った。どうやら吸蜜のために虫が潜っていたようだ。
本日の掲句は、その時の様子を詠んだ句である。花の少ないこの時期、冬を越す虫たちにとっては、格好の食事処のなのだろう。「花八手(はなやつで)」は、「八つ手の花」のことで冬の季語。
【関連句】
① たなごころころげてまるき花八つ手
② 妖しきや真白き玉の花八つ手
②は、八つ手が開花し始め、雄蕊を伸ばしている真っ白な花を見て詠んだ句。「妖し」は、「神秘的な」「魅力的な」という意味。
葉はやや厚手で光沢があり、掌状で5~11の奇数に裂けているが、8つに裂けているものはほとんど無い。名前の八は数が多いという意味で使われたとのこと。この大きな葉に着目し、「天狗の羽団扇(はうちわ)」という異名がある。
雄性期の花は、白い花弁と雄蕊が美しく、ふんわりとした姿になる。しかし、雌性期の花は、坊主頭に毛が生えた感じになり、少々ごつごつした感じになる。
【花八(つ、ツ)手の参考句】
写真師のたつきひそかに花八つ手 (飯田蛇笏)
八つ手咲き仄めきそめし昴星 (相生垣瓜人)
八ツ手散る楽譜の音符散るごとく (竹下しづの女)
みづからの光りをたのみ八ツ手咲く (飯田龍太)
八つ手咲き板塀が反る日向路 (高澤良一)