■ 固まりてイクラの如きさねかずら
( かたまりて いくらのごとき さねかずら )
ただ、今日取り上げる「実葛(さねかずら)」は、いくつもの実が固まって球状になるので比較的に分かりやすい。
本日の掲句は、その実葛の果実をイクラに喩えで詠んだものである。その粒々がどことなく、寿司屋などでみるイクラを彷彿とさせる。実葛は秋の季語。
*イクラの軍艦巻き
この果実に触発された訳ではないが、当日はたまたま回転すし店に行き、イクラの軍艦巻きも食べた。比べて見ると、実葛の方が赤味が若干強い。
尚、実葛については、食用に適さず、ほとんど味がないとのこと。
ところで、近辺で実葛を見ることは少なくなったが、万葉集の時代から愛でられていて和歌にも結構詠まれている。その中でも特に有名なのが、以下の和歌である。
名にし負(お)はば 逢坂山(あふさかやま)の さねかづら
人に知られで くるよしもがな 三条右大臣(藤原定方)
これは、小倉百人一首にも選定されている歌で、ご存知の方も多いと思うが、現代語訳では以下のようになるとのこと。(百人一首講座より引用)
《現代語訳》
恋しい人に逢える「逢坂山」、一緒にひと夜を過ごせる「小寝葛(さねかずら)」、
その名前にそむかないならば、逢坂山のさねかずらをたぐり寄せるように、
誰にも知られずあなたを連れ出す方法があればいいのに。
【名にし負(お)はば】 ~という名前をもち、それに背かないなら
【逢坂山(あふさかやま)】 山城国と近江国の国境にあった山。「逢ふ」との掛詞。
【さねかずら】 つる性の植物。「小寝(さね=一緒に寝ること)」との掛詞です。
【人に知られで】 他人に知られないで
【くるよしもがな】 「くる」は「来る」と「繰る」の掛詞。繰る」は「たぐり寄せる」という意。「よし」は「方法」、「もがな」は願望。
名前は、実(さね)が美しい葛(かずら)=蔓性植物という意。別名で「美男葛(びなんかずら)」とも言うが、これは、かつて武士たちが、蔓から粘液をとって鬢付け油(整髪料)に使ったことに由来する。
【実葛等の参考句】
地震にも耐へし玉垣さねかづら (森田峠)
*玉垣:皇居・神社の周囲に巡らした垣。
先例のかつては異例さねかずら (池田澄子)
さねかづら昔男に琴の音 (伊藤三十四)
風狂の忘れものあり実葛 (喜田礼以子)
さねかづら置かれし夜の畳かな (水野恒彦)