■ 天界の花は此岸に秋彼岸
( てんかいの はなは しがんに あきひがん )
仏教では、この秋分の日に前後三日を加えた七日を「彼岸(ひがん)」といい、秋分の日を「彼岸の中日」、最初の日を「彼岸入り」、最後の日を「彼岸明け」という呼ぶ。
今日取り上げる「彼岸花(ひばんばな)」は、まさにこの時期に咲く花ということで、名前に彼岸がつけられている。
どうやって、その開花時期を調整しているのか分からないが、今年も時期を違えず咲きだし、現在方々で見られる。
本日の掲句は、そんな花を見て詠んだ句。上五の「天界の花」とは、この花の別名の「曼殊沙華(まんじゅしゃげ)」が「天界の花」という意味を持っていることから使用した。
また、中七の「此岸(しがん)」は、あの世=極楽浄土を意味する彼岸の対語で、この世=現世のことを意味する。
下五の「秋彼岸」は、春の彼岸と区別して使用され、秋の季語となっている。尚、単に「彼岸」と言えば春の季語となる。
因みに、「彼岸花」「曼殊沙華」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 此岸にも彼岸にもほら曼珠沙華
② 長袖を捲り眺むる彼岸花
③ ぴんしゃんと雨をはじいて曼珠沙華
①は、曼珠沙華が、この岸にもあの岸にも咲いていると詠んだもの。此岸、彼岸の本来の意味を離れて、それをもじって使った。
②は、彼岸の時期が寒かった年に詠んだ句。この年は、既に長袖の上着を着ていたが、昼ぐらいになると暑くなり袖を捲(まく)り上げていた。
③は、曼殊沙華の真っ赤な雄蕊がピンと張り雨をはじいているのを見て詠んだ句。
彼岸花(曼殊沙華)は、ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草で、原産地は中国。葉が春になると全て枯れ、9月中旬頃、花茎だけが地中から出てくる。そして、その先端に5個から7個ほどの小花を咲かせ、一輪の華やかな花姿を形成する。園芸種として、花色が白、黄のものもある。
彼岸花の名前の由来、別名の曼珠沙華の意味については既述の通りだが、この花については他にも多くの名称がある。
少しどぎつい花の色や毒があることなどから、「死人花」「地獄花」「幽霊花」などと呼び、忌み嫌っている地方もあるとのこと。
彼岸花(曼殊沙華)を詠んだ句は非常に多く、これまで何句も取り上げたことがある。そこで、今回は「秋彼岸」について参考になる句をいくつか掲載した。
【秋彼岸の参考句】
ひとごゑのさざなみめける秋彼岸 (森澄雄)
地の罅によべの雨滲む秋彼岸 (岡本眸) *罅(ひび)
草々の影のふれあひ秋彼岸 (片山由美子)
秋彼岸山は入り日を大きくす (成田千空)
秋彼岸湧いて玉なす水の音 (川崎展宏)