■ 鬼百合が人里恋しと咲きにけり
( おにゆりが ひとざとこいしと さきにけり )
一つが先週の金曜日に取り上げた藪萱草(やぶかんぞう)=忘れ草。そして、もう一つが今日取り上げる鬼百合(おにゆり)である。
鬼百合は、その名の通り百合の仲間だが、花色が橙色というより赤色に近く、花弁に黒い斑点がある。
名前は、その花姿が赤鬼に似ていることからつけられたと言われるている。ちょっと可愛そうな名前だが、そのお陰で名前がよく知られているように思う。
ところで、赤鬼と言えば思い出す童話に「泣いた赤鬼」がある。ストーリーがうろ覚えだったので、ネットで検索し改めて読んでみたが、何とも切ない話ではある。
本日の掲句は、そんな童話に思いを寄せて詠んだ句。「鬼百合」は夏の季語。
実は同じような趣旨で、かつて以下の句を詠んだ。
山里に泣いた赤鬼百合の揺る
人恋いの鬼百合揺るる川辺かな
あまり変わり映えしないが、道端や川辺に咲いている鬼百合を見ると、人里を恋しく思う赤鬼が何となく連想される。
【関連句】
① 百合なれど鬼と呼ばれる定めとは
② 鬼百合が熟女に変わる逢魔時
③ 鬼百合やちょうちん横丁縄のれん
①は、百合は美しい女性を形容する時に使われるのに、「鬼」と言われるなんて何という定め(運命)なのだろうと憐れんで詠んだ句。
②は、鬼百合という花の奇異な名前と逢魔時(おうまどき)の怪しげな雰囲気を結びつけて作ったイメージの句。*逢魔時=夕暮れ時
③は、赤い鬼百合が俯きかげんに、いくつも咲いている姿を、居酒屋の赤ちょうちんが並ぶ横町に重ねて詠んだ。
鬼百合は、ユリ科ユリ属の植物。原産地は、日本、中国、朝鮮など。花期は7月から8月で、花弁は赤色(オレンジ色)で、黒紫色の斑点があり、強く反り返る。種子は作らないが、葉の付け根に黒紫色の零余子(むかご)を作る。
【鬼百合の参考句】
鬼百合は畦の義民の墓に咲く (大峯あきら)
飛来して鬼百合が刺す朝の駅 (坪内稔典)
鬼百合やりんとひらいて蝉の声 (中村史邦)
鬼百合の虚空に燃ゆる宝島 (橋口等)
鬼百合を泣かしてをりし峡の雨 (佐藤とみ子)