■ 夏草の土手を潤す姫檜扇水仙
( なつくさの どてをうるおす ひめひおうぎすいせん )
しかし、最近になって、疏水べりなどを歩くと至る所で目にするので、やはり取り上げることにした。
本日の掲句は、その疏水べりの一景を詠んだものである。夏草が生い茂り緑一色になった土手に、この花の朱色が際立ち、潤いのある雰囲気を醸していた。
「姫檜扇水仙」は、丁度仲夏の辺りに咲くので、夏の季語に相応しいと思うが、まだ認定されていないようなので、上五に「夏草」という夏の季語をおいた。
ところで、この草花の名前には「姫」がついているが、植物名では「小さい」という意味合いで使われることが多い。
だから、「檜扇水仙」という植物が別にあるのか確認するとやはりあった。洋名は「ワトソニア」。同じアヤメ科の花だが、姫檜扇水仙とは別属の花である。実物はまだ見てない。
事のついでに言えば、「姫檜扇」あるいは「檜扇」という名の植物も別にあるので、「姫檜扇水仙」という長い名前をどこかで省略し短縮して呼ぶ訳にはいかない。(一般的には、かなり混同して使われている。)
「モントブレチア」という洋名もあるので、それを使う手もあるが、この名前だと和のイメージが完全に消え、印象がかなり違ってくる。
話は戻って、姫檜扇水仙に関しては、過去に10句近く詠んでいるが、その中から比較的ましなものを以下に掲載する。
【関連句】
① 汚れなき巫女の如くに姫檜扇水仙
② 浪漫の夢に憧れモントブレチア *浪漫(ろうまん)
③ 濡れそぼち姫檜扇水仙の艶めかし
①は、花の朱色を巫女(みこ)の袴に重ねて詠んだ句。その喩えは、当たらずとも遠からずと今も思っている。
②は、洋名の「モントブレチア」の響きに、西欧風のロマンチズムを感じて詠んだ。
*「ロマンチズムとは、18世紀末から19世紀にかけて、ヨーロッパに興った芸術上の思潮。古典主義・合理主義に反抗し、感情・個性・自由などを尊重、自然との一体感、神秘的な体験や無限なものへのあこがれを表現した。」
③は、雨に打たれてびしょぬれになっている姫檜扇水仙を見て詠んだ句。草木の緑葉をバックに、朱色が映えていて、ここだけが何とも艶(なま)めかしく見えた。
*いずれの句も「姫檜扇水仙」を夏の季語として詠んでいる。
③は、雨に打たれてびしょぬれになっている姫檜扇水仙を見て詠んだ句。草木の緑葉をバックに、朱色が映えていて、ここだけが何とも艶(なま)めかしく見えた。
*いずれの句も「姫檜扇水仙」を夏の季語として詠んでいる。
姫檜扇水仙は、アヤメ科モントブレチア属の多年草。南アフリカ地方原産。明治期に園芸植物として渡来し、その後野生化した。花期は7月~8月。
和名の由来については既に述べたが、それにしても「姫」+「檜扇」+「水仙」と、何とも愛らしく上品な名前ではある。
洋名の「モントブレチア」は、この植物を交配した仏人のモントブレットに因む。他に「クロコスミア」 という別名がある。
姫檜扇水仙は季語になっていないせいもあり、詠まれた句はほとんどないので参考句は割愛する。