■ 時計草動く気配はなかりけり
( とけいそう うごくけはいは なかりけり )
「時計草」という草花があることを知ったのは6年ほど前だった。ネットの植物図鑑に、この植物の写真が掲載されていて、世の中には面白い花もあるものだと思った。
そして、その数日後、偶然橋の袂に1輪だけ咲いているのを見つけた。まさしくネット図鑑で見た通りの花であり、そのことを以下のように詠んだ。
時計草天の匠の技光る
その花の構造が、時計の文字盤と針のように非常に精巧にできており、これはきっと天にいる匠(たくみ)の技に違いないと思った。
その後、植物園で何度も見ることになるが、その時の強烈な印象は今も変わらないし、これほどユニークな花は、寡聞にして他に知らない。
ところで、この時計草、いつ見ても時を刻むことはないし動く気配もない。一体いつになったら動くのだろう。
本日の掲句は、そんな思いをもって詠んだ。「時計草」は夏の季語。
因みに、過去に詠んだ句としては他に以下の句がある。
【関連句】
① かちこちとうるさきほどに時計草
② 秋思かな時を刻まぬ時計草
①は、同じ植物園で、沢山の時計草が咲いているのを見て詠んだ句である。この時は、これだけの時計が一斉にかちこちと鳴りだしたら、さぞや煩(うるさ)いことだろうと思って詠んだ。
②は、秋の10月頃に詠んだ句。時計草の花期は長く、夏だけでなく秋においても咲いている。
*秋思(しゅうし):秋に感ずるさびしい物思い。
時計草(とけいそう)は、トケイソウ科トケイソウ属の常緑蔓性多年草。原産地は中南米の熱帯・亜熱帯域。花期は長く通常5月から11月。室内では四季咲きのものもあるとのこと。
*時計草の果実(パッション・フルーツ)
尚、パッションとは「受難」の意。時計草は英名で「パッション・フラワー」というが、それは、花の雄しべの形状を十字架に見立て、「キリストの受難」を表していることから付けられた。
「パッション・フルーツ」という名は、その英名に由来するが、日本では、「パッション」=「情熱」の意で通っている。
「時計草」を詠んだ句はままあり、ネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載する。(過去に掲載したものをの除く。)
【時計草の参考句】
時計草モデルハウスに刻きざむ (小玉真佐子)
ときじくの霧の触れゆく時計草 (橋本榮治)
巻きもどし出来ぬ人生時計草 (石山滋子)
時計草ドイツ靴屋の裏垣根 (福岡蝶花)
岡寺へ急坂がかり時計草 (角光雄)
*花は、花の形のまま落ちるのでなく、花弁や蕊を萼片で包み込むようにして散る。