■ 灼熱の心一途に蝉の恋
( しゃくねつの こころいちずに せみのこい )
鳴きだすのは雄で、雌を求めて鳴くのだが、それを「蝉の恋」と表現し、本日の掲句を詠んでみた。
上五の「灼熱」とは、「焼けつくように熱いこと」を言うが、転じて「激しく情熱をもやすこと」をいう。少し大袈裟だがその鳴き声の激しさから、あながち的外れとも言えないだろう。
「猫の恋」が春の季語なので、「蝉の恋」も季語になっているのではと思ったが、季語にはなっていない。したがって、本句では「蝉」が夏の季語となる。
因みに、「蝉」に関しては、これまで何句も詠んでいるが、その中から比較的ましなものを以下に再掲する。
【関連句】
① 梅雨明けになるや俄かに蝉時雨
② 降りしきる雨にも負けず蝉時雨
③ それほどに呼ぶのは誰ぞ蝉時雨
①は、梅雨明け宣言が出された途端、待っていたかの如く、蝉時雨の音が急に大きくなってきたことを詠んだ。
②は、雨が降りしきる中でも、それに負けじと鳴いている様子を詠んだもの。中七は、宮澤賢治の有名な詩「雨にも負けず」からの引用。
③は、懸命に鳴く蝉の声に、必死になって誰かを呼ぶ人の思いをダブらせて詠んだ句。蝉の声は、時に何とも悲痛に聞こえることがある。
蝉は、卵→幼虫→成虫という不完全変態(蛹:さなぎを経ない)をする昆虫である。幼虫として地下生活する期間が長く、3~17年(アブラゼミは約6年)に達するそうだ。成虫期間は僅か1~2週間。
鳴くのはオスの成虫で、腹腔内に音を出す発音筋と発音膜、音を大きくする共鳴室、腹弁などの発音器官が発達しており、懸命に鳴いてメスを呼び命をつなぐ。そして、ついには落蝉となって一生を終える。
長い長い暗闇の生活から地表(世間)に出て、華々(はなばな)しく?一生を終える。こんな生き方ってどうなんだろうと思ったりもするが、良いかどうかは蝉に聞いてみるしかないだろう。
参考句に関しては、これまで何句か取り上げたが、今回は「蝉時雨」以外で詠んだものを敢えて選んでみた。
【蝉の参考句】
馬鈴薯を夕蝉とほく掘りいそぐ (水原秋桜子)
唖蝉も鳴く蝉ほどはゐるならむ (山口青邨)
百年の館とりまく蝉の声 (柴田白葉女)
風すがし気ままに移る森の蝉 (河野南畦)
砂あぶる雀見てゐて蝉の恋 (宮坂静生)