■ 幽霊も今は昔の夏柳
( ゆうれいも いまはむかしの なつやなぎ )
先日、街中を流れる川の両岸沿いに、何本もの枝垂柳が植えてあるところを通りかかった。
清らかな水、爽やかな風、揺蕩う柳葉。何とも心地良い景が連なっていた。
そんな景を見ながら一句できないかと思って考えていたら、思いがけなく「幽霊」という言葉が浮かんできた。
そう言えば、柳に幽霊はつきもの。昔は、こういう枝垂柳の下によく出たと言われている。その証拠に沢山の絵も残されている。
ところが、半世紀以上生きたのにまだ実物を見たことがない。出たという噂も聞いていない。もうとっくに絶滅してしまったのだろうか。
そんなこともつらつら考えながら詠んだのが本日の掲句である。
「幽霊」は夏の季語としている歳時記もあるが、そうなっていないものも多い。そこで、掲句では「夏柳」を夏の季語においた。尚、単独で「柳」とすると春の季語となる。
ところで、「幽霊」とはそもそも何なのか、辞書には、「死後さまよっている霊魂。恨みや未練を訴えるために、この世に姿を現すとされるもの。」という説明があった。
ならば、「お化け」「妖怪」とはどう違うのか。漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である、水木しげる氏の定義によれば以下の通り。
【お化け】 何かが他のものに化けたもの
【妖怪】 怪しい生き物・怪現象を全部ひっくるめたもの
すなわち、「幽霊」は人間の死や霊魂に関わるが、「お化け」や「妖怪」は、それとは関連がなく、何かが変化したもの、妖しい形をしたもの全般をさすようだ。ただし、「お化け」や「妖怪」の区分の方はあまり明確ではない。
尚、昨今では、幽霊やお化けは廃れてきたものの、妖怪が非常に人気を博している。ポケットモンスター(ポケモン)、妖怪ウオッチのキャラクターなどなど。いずれも、あまり怖くなく友達感覚のものが多い。
こうなると柳の下で「うらめしや」と言ってもあまり受けない。幽霊にとっては、なかなか住みにくい世になったものだと思うが、これも世の流れだろう。
参考句については「幽霊」を詠んだものを探してみた。いくつかネットで見つけたので以下に掲載する。
【幽霊に参考句】
幽霊の出るといふなる柳かな (正岡子規)
淋しい幽霊いくつも壁を抜けるなり (高柳重信)
幽霊のみな美しき絵灯篭 (小島左京)
コカコーラ持つて幽霊見物に (宇多喜代子)
幽霊のよく出た庭よりカンナ咲く (五島高資)