■ 紅潮の馬酔木何やら艶めかし
( こうちょうの あしびなにやら なまめかし )
馬酔木は元来白い花を咲かせるが、この馬酔木は薄紅色(ピンク)で、最近は公園などでも結構見かける。
ただ、白とピンクでは、やはり見た印象がかなり違う。白のものは、やはり清楚な感じがするが、ピンクとなると非常に艶(あで)やかな感じがする。
本日の掲句は、そんな印象を詠んだ句。白であれば、見過ごしてしまうこともあるが、ピンクだとやはり目立つこともあり、つい目がいってしまう。
尚、「馬酔木」は「馬酔木の花」「花馬酔木」とともに春の季語。
余談だが、「艶」という漢字は、以下のようにいろいろな読み方があり、どう読むのか迷うことがある。
艶やか(つややか):光沢があって美しいさま。張り弾力のある感じの美しさ。
艶やか(あでやか):美しくて華やかなさま。特に女性。
艶めかしい(なまめかしい):姿や仕草が色っぽい。優雅で気品がある。
艶(えん):はなやかで潤いがある。色気がある。
いずれも、美しさを形容する言葉だが微妙にニューアンスが違う。
【関連句】
① 満面に鈴鈴なりに馬酔木咲く
② 矢来垣越えて耀う花馬酔木
③ 参道は白こそ良けれ花馬酔木
①は、馬酔木の鈴のような花が、木全体に鈴なりに咲いている様子を見て詠んだ。②は、古い屋敷の矢来垣(やらいがき)から溢れるように咲いていた花を見て詠んだ。③は、ある神社の参道で、真っ白な色の馬酔木を見て詠んだ。やはり、参道ではピンクでなくて白が似つかわしい。
「馬酔木」は、伊藤左千夫を中心として創刊された短歌雑誌、水原秋桜子が主宰した俳句雑誌の名前にも使われているが、この方は「あしび」と読む。植物学的には「あせび」が正式のようだが、文学的には「あしび」がよく使われる。
【馬酔木の参考句】
馬酔木折つて髪に翳せば昔めき (高浜虚子)*翳す(かざす)
残る雪馬酔木のかげに退きぬ (富安風生)
春日野や夕づけるみな花馬酔木 (日野草城)
宵長き馬酔木の花の月を得し (野沢節子)
双塔のうかぶ野の果て馬酔木咲く (水原春郎)