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Channel: 写真・俳句ブログ:犬の散歩道
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菫ほどに小さく生きてきたりけり

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■ 菫ほどに小さく生きてきたりけり   
                     ( すみれほどに ちいさくいきて きたりけり )

イメージ 1菫(すみれ)と言えば、三色菫(パンジー)のイメージが強く、野に咲く菫に関しては、俳句をやるまであまり興味がなかった。しかし、最近はどちらかというと、野辺や道端に、慎ましく咲いている菫に愛着を持つようになった。

菫を詠んだ有名な句としては、よく以下の二句が挙げられる。

     山路きて何やらゆかし菫草 
                               (松尾芭蕉)
     菫程な小さき人に生れたし 
                               (夏目漱石)

この内、芭蕉の句は、読めば情景がぱっと浮かんでくるが、漱石の句の方は、作者を知らずに読んだ時はおやっと思った。それが漱石の作と知り更に驚いた。

本日の掲句は、そんな句のパロディーとして詠んだ句である。漱石は、菫程の小さい人に生まれたいというが、自分は望まずして、菫ほどに小さく生きてきたというのが句意である。菫は春の季語。

ところで、漱石がどういう心境でこの句を詠んだのか。あるいはどう解釈すべきなのか。いろいろな説が飛び交っているようだが、比較的納得できるものを整理すると以下のようになる。

イメージ 2

●この句は、漱石が30歳の時に詠まれた句。 熊本第五高等学校の教授になり、鏡子と結婚した頃で、正岡子規とも既に親交があり、本格的に俳句に打ち込んでいた。イギリスへの留学はその数年後のこと。
●一見自虐的な句だが、漱石は大の草花好きで、清らかで、慎ましく、俗塵に汚されない、小さな菫に理想を見出したのではないかと考えられる。また、薄幸ば幼少期を経て、人との交流をさけ、ひたすら自分の好きな事に熱中したいという願望もあったようだ。
●その後、彼は、皮肉にも日本を代表する文豪になる訳だが、それは必ずしも自分の理想とする生き方ではなかったようである。結局、神経衰弱(鬱病)、胃潰瘍その他の病気を患いながら、心身を削るようにして小説を書き49歳という若さで亡くなった。

元々才能のない小さき人は、「菫程の小さき人」に生まれたいとは思わないから、漱石の句は、持てる者の悩みを詠んだ句であるともいえよう。

イメージ 3因みに、これまで自分が詠んだ菫の句は意外と少なく、以下の句ぐらいである。

       道の辺に芭蕉もみたる菫みる

この句は、ある路地を歩いている時に、古いアスファルトの僅かな隙間に咲いている菫の花を見て、芭蕉の前述の句を思いだし詠んだ句である。

菫(すみれ)は、スミレ科スミレ属の植物の総称であるが、その種類は150種以上あると言われている。今は外来種のパンジー(三色菫)やビオラなどの園芸種が花壇や鉢植えなどでの主役となっている。ただ、道端や野辺の菫となると、在来種でないとどうも様にならない感じがする。

菫を詠んだ句は非常に多く、その中からいくつか選定し以下に掲載した。

       【菫の参考句】
        かたまつて薄き光の菫かな      (渡辺水巴)
        うすぐもり都のすみれ咲きにけり   (室生犀星)
        蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫     (三橋鷹女)
        カメラ構えて彼は菫を踏んでいる    (池田澄子)
        あたらしき鹿のあしあと花すみれ    (石田郷子)

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