■ 蝉時雨止みて闇なる虫時雨
( せみしぐれ やみてやみなる むししぐれ )
8月下旬に入り、蝉時雨(しぐれ)の音もだんだんと小さくなってきて、夕方ぐらいになるとその音も止み、代わって虫の声がかしましく聞こえるようになってきた。それを、蝉時雨に倣って「虫時雨(むししぐれ)」というが、その音は秋の訪れを強く実感させる。
因みにこれまで、「虫」及び「虫時雨」「虫の声」「虫の音」などについて何句か詠んだきた。その中で比較的気に入っている句を解説を加えて以下に掲載したい。
① 蛙蝉 最終楽唱 秋の虫
② 虫の声 動画サイトで聞き比べ
③ 大雨の止めば激しき虫時雨
④ 虫の音を門に入るれば虫の闇
①は、5月~6月頃に蛙(かえる)の合唱があり、7月頃から蝉の合唱(蝉時雨)が始まり、そして今秋の虫が最終楽章(唱)とばかり合唱を始めたという句意。
②は、窓から聞こえてくる虫の声は何という虫のものか、インターネットの動画サイトで聴き比べているというもの。最近は非常に便利になった。
③は、台風のせいで大雨が降っていたが、それが止んだ途端、虫時雨の音が激しく聞こえてきたという句意。ここぞとばかり、あらん限りの声?を張り上げているようだった。
④は、そのまま読めば素通りされそうだが、「門」に虫の「音」を入れれば、虫の「闇」になったという戯れ句。
窓の燈の草にうつるや虫の声 (正岡子規)
其中に金鈴をふる虫一つ (高浜虚子) *其中(そのなか)
虫時雨銀河いよいよ撓んだり (松本たかし) *撓んだり(たわんだり)
閂をかけて見返る虫の闇 (桂信子) *閂(かんぬき)
虫なくや我れと湯を呑む影法師 (前田普羅)