■ 水温み池の杭にも苔ぞむす
( みずぬるみ いけのくいにも こけぞむす )
そんな折、植物園の小池の中に打ち込まれた杭の先に緑の苔が生え、小さい花を咲かせているのを見た。それがどんな状況だったかは、説明するよりも写真を見ていただいた方が良いだろう。本日の掲句は、その様子を詠んだものである。
*苔ぞむす:「苔」に、語句を強調する係助詞「ぞ」+「む(生)す」の連体形。係り結び(かかりむすび)の文法規則による。
ところで、俳句で難しいのは、自分の感動を十七音の言葉でどう表現し伝えるかである。状況を丁寧に表現すると説明的になってしまう。かといって、それを必要以上に省略すると全く意味が通じなくなる。
それを解消するために、季語は非常に有効で、状況説明をある程度省くことが可能になる。例えば、「水温む」」というだけで、初春から仲春にかけ次第に暖かくなる雰囲気が伝わってくる。しかし、他の人があまり経験したことがない事柄や情景を、その人に分かるように詠むのは非常に難しい。
しかし、俳句が短詩形である以上、それは止むを得ないことである。最近はそうと割り切って、読み手の想像力を駆り立てるように詠むことの方が肝要なのではないかと思っている。
尚、本句では「水温む」が春の季語である。「苔」の方は、単独では季語にならず、「苔の花」「苔茂る」とすると夏の季語になるが、今回は季重なりを避けるため「苔生す(むす)」を使った。*苔生す:苔が生える。
【水温む等の参考句】
鯉ゆけば岸は明るく水温む (山口青邨)
水温み大きく過ぐる鳥の影 (茂里正治)
つながつてのぼり来る泡水温む (川崎展宏)
逆流をすこしこころみ水温む (上田五千石)
一の堰二の堰越えて水温む (森高たかし)