■ 宇治川に白く逆巻く雪解水
( うじがわに しろくさかまく ゆきげみず )
先日、宇治に行った時に非常に印象深かったのは、宇治川の水の流れである。普段は、京都市内を穏やかに流れる鴨川を見ているので、その水量の多さと速さには驚かされた。
尚、掲句では上五に「宇治川」を入れたが、固有名詞を入れるかどうか少し迷った。なくても雪解水で初春の感じが出せると思ったが、何時も見ている鴨川とは、あまりにも印象が違ったので入れることにした。
ところで、川の固有名詞を入れた句としては、松尾芭蕉の以下の句が抜きん出て有名である。
五月雨を集めてはやし最上川
最上川を実際に見たことはないが、五月雨が川の水量を増し、滔々と流れている情景が目の前に浮かんでくる。
芭蕉が最上川を詠んだせいか、後に多くの俳人がこの地を訪れ句を詠んでいる。例えば以下のような句。
音もなし氷柱が刺せる最上川 (加藤秋邨) *氷柱(つらら)
最上川幾世流れて梅雨濁る (文挟夫佐恵)
文月の葛がびつしり最上川 (皆川盤水)
どん底を木曾川のゆく枯野かな (松本たかし)
信濃川大き青田を曲流す (山口誓子)
北上川大きくうねる野火避けて (能村登四郎)
紀の川の濁りし雛流しかな (加藤三七子)
話は宇治川に戻るが、この川は、近畿地方を流れる淀川水系の中流部の通称で、琵琶湖から流出する瀬田川を源流とし、天ケ瀬ダム上流部から桂川、木津川合流部付近までをいう。中間に位置する観月橋の近くに塔の島があり、その周辺で鵜飼いや舟遊びなどが行われる。また、この近辺は平安貴族の別荘地で、源氏物語の「宇治十帖」の舞台となっている。
【宇治川の参考句】
宇治川や朝霧立ちて伏見山 (上島鬼貫)
宇治川をわたりおほせし胡蝶かな (高浜虚子)
宇治川に波立ちて来ぬ青簾 (田村木国)
宇治川に映れる山の薄紅葉 (池内たけし)
宇治川に近き宿とる蛍の夜 (安田晃子)